【魔法少女レムリアシリーズ】豊穣なる時の彼方から【1】
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こんな暑い土地にお菓子を持ち出すのは適さない。
溶けるからだ。砂糖を含んだものなんか特にそう。ただ、お菓子は子ども達に受けが良いし、少ない量でカロリーが多めに取れる。持参できる食品の量に限りがある中で、効率がいいのだ。
アフリカ南部。内戦で村を破壊された人たちの難民キャンプ。
テントの中で男の子が囓っているのは日本の“塩せんべい”。溶けてベタベタしないものは何か、を探した結果の試みがこれ。不思議な光景のようだが、アフリカ大陸の東に浮かぶマダガスカルは米の産地。大陸側近隣に米食文化が広がっていたかも知れない、ということからの思いつき。
「Soeur avec des cheveux noirs.」
たどたどしいフランス語で、男の子に呼ばれて、彼女は振り向く。
「Mangez-vous plus de sucreries je?」
せんべい片手の彼女を見たならば、日本の中学校の看護師体験学習かと見まがうであろう。彼女は確かに白衣に身を包んでいるが、その顔立ちは“ころん”として、少女マンガのヒロインのようで、ショートカットの髪は黒く、髪と同じく黒き瞳には星空を蔵す。
しかしここはアフリカ大陸であり、彼女が操ったのはフランス語である。ちなみに、「黒髪のお姉ちゃん」と呼ばれて、「もっと食べるの?」と応じた。
すると。
「Une personne est morte」
男の子は淡々とそう言い、せんべいをばりっとかじった。
「Est-ce que vous avez regardé une personne morte?」
彼女は目を剥いて訊いた。同時に彼女の後方、ノートパソコンを見ながら何事か会話していた白衣の数人から、背の高い男が振り向いた。彼は欧州人種であり、ブロンドの髪に青い瞳。
以下日本語で記す。
「死体だって?」
「ええ確かに、そう言いました」
彼女は応じながら立った。身長152センチ。その背と顔立ちは、欧米人主体で構成される国際医療ボランティア“欧州自由意志医療派遣団”の中にあって、ひときわ小柄で幼く見える。しかしそれが逆に、子供たちには親近感を与えるようだ。
「見てきます」
「気をつけて」
送り出されてテントを出ると、ひたすらな赤土の大地。
焼け付く日差しと揺らめく陽炎。
(つづく)
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