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【理絵子の夜話】犬神の郷-1-

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 エクスクルーシヴ・モデル2402は、重量90キロ程度。人の顔より大きなウーファユニットを2機備えたスピーカシステムである。巨大なスピーカは動かすことは勿論、電磁誘導による逆起電力も大きく、当然、駆動するアンプリファイアも応じた性能が求められる。
「昔惚れた女に再会したような気分だよ」
 ややハゲの目立ってきた初老の男性が感想を述べる。2機のスピーカは和室板の間、左右に分かれて鎮座ましましてあり、その左右の間には、駆動アンプ等一式が並べられてある。
 男性の手にはコップの日本酒。
「なら、それ持って出て行けば?私はいいのよ?」
 前掛け姿の白髪の女性がお盆でゴチン。
「イタ……ウソだよ幸子、惚れた女はお前だけ」
 男性は額をさする。アンプ等一式……コントロールアンプC-290と2台のパワーアンプM-1000。CDプレーヤはDP-75という。スピーカを含めシステム全体で1000万円に近い。パワーアンプは左右のスピーカーそれぞれに1台ずつあてがう。
「女の子の趣味じゃないぞ」
 男性はジャズのCDを入れ替えながら、ブレザーの制服にエプロンを着た娘に問うた。透明感のある顔立ちの娘で背が高く、髪も長い。その瞳は知的でクールな印象があり、お人形さん的な冷ややかさ、素っ気なさを与える。
「父親が見栄っ張りだったもので」
 制服の娘、本橋美砂(もとはしみさ)はそう言うと、男性が一升瓶を立てているコタツに台ふきを走らせる。
 彼女は親族の一切を失った結果、山懐で民宿を経営する塙(はなわ)夫妻の元に住み込み、宿を手伝うことになった。応じて自宅を売り払ったが、生活資材以外で唯一持ち込んだ私物が、これらオーディオセットである。
 冬山登山だという男性の泊まり客一団を早朝送り出し、宿の主人としては音楽聞きながら“午前の晩酌”。
 
(つづく)

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