【魔法少女レムリアシリーズ】豊穣なる時の彼方から【4】
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彼女は族長の瞳を見た。…その瞳は白く濁り…すなわち白内障であって光を失って久しい。しかし間もなく、その瞳が見開かれた。
驚いた表情が形作られる。さもあろう。彼女は今、その超常感覚的知覚を用い、族長と意識を交換している。その能力だけを取って名をテレパシー。
彼女は口にする。それは族長が脳裏に浮かべた伝承の言葉。
「満ちた時、黒曜石の瞳の天使が母なる天空より舞い立ち、父なる大地より解き放たれた、数多(あまた)虹の石のありかを示す。この声を伝える者よ、その時が来たならば天使の言葉の赴くままに、手にしたツハルを大地に立てよ」
「なんだいそれは?」
ひょろ長の彼が訊いた。
「この地に与り知らぬほど太古より伝わる伝説。と、族長さんに伺いました。えっ?」
彼女はそこで族長を振り返り、目を円くし、自分を指さした。
「(あなたこそ黒曜石の瞳の天使。天より舞い降りた伝承の天使)」
族長は、杖を持つ手を彼女へ向かってさしのべ、ゆっくりした口調で、部族の言葉で、そう言った。
彼女はこの地の言葉を知らぬ。もちろん、テレパシーによる理解である。
「あたしが?」
そんな馬鹿な。
「確かに、お姉ちゃん、空から降ってきた」
男の子が言った。
まぁ確かに、黒い瞳で、空から来たと言えば来たが。
ヘリコプターで降りてきた東洋系の小娘と、天から降臨する使者とは、思い切り対極にあると思うが。
「(言葉を、あなたの言葉を)」
族長は完全に信じ切っているようである。その目には涙さえ浮かべている。
恐らくは彼の部族にとって最高位の伝承に違いない。似た例として聖書にも伝承の王国が出てくるが、“その時”に出くわすのが類い稀なる栄光と幸福であろうことは、それだけをネタに自称イエスが新興団体を立ち上げることからも容易に判る。
ひっくり返せばそれだけの重みがあるということ。だとすれば、「違います」と固辞するのは、激しい落胆をもたらす事は容易に想像が付く。ましてや…どうも族長殿は己が目が光を失った代わりに、栄光の時に立ち会えた…という感慨を持っているようだ。だったらなおさら。かといって“その振り”をしても、何も起こらないことは確実。
でも、ない。
彼女は示唆を得る。そしてその得た示唆のままに口にしてみる。
「(秘めたるを白日の下に。待つべき時の満ち足りて)」
それは現地の言葉ではなく。フランス語や英語でもなく。どころか、世界のどこの辞書にもない語。
(次回・最終回)
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