声は糧、あるときは武器【前】
地下鉄と新幹線を乗り換えるとき、いわゆる駅ナカのテレビ局ショップ街を通る。娘が好きなアニメのショップもその一角にある。女の子が主人公で、色使いは、どこもかしこもピンクピンクピンク。
何かチョット買ってやろうと思うのはオヤジの甘さか。
出張帰りに通りかかると女の子の泣き声。
「シルバーがないよ~」
女の子の前には困った顔の若い女性がしゃがみ込んでいる。そのアニメキャラのTシャツを着ており、ショップの店員さんだと判る。
横目に見て少し物色して、女の子の訴えの理由が分かる。
娘もそうだがそのアニメは女の子二人、ゴールドとシルバーのコンビで活躍する正義の味方。なのだが、ゴールドの方が主役で人気があり、畢竟、シルバーのグッズは少ないのである。
で、売り切れ。女の子の手に財布が握られている辺り、お小遣い貯めて買いに来たのであろう。
女性店員が次の入荷日を説明するが……大人の事情を子どもが聞くわけもなく。
「お父様ですか?」
じっと見ていたオレの背中に別の女性。界隈流行りの万引きか、はたまた人さらいとでも思われたか、ともあれ綺麗な声だ。
「いえ……あ」
オレは気付いた。そのアニメの主題歌を歌う歌手ではないか。
まぁ、担当番組のショップを覗くのはヘンではあるまい。
「……さん、ですよね。娘に良く歌わされます。で、男の声だとヘンだと」
「どうもありがとうございます。しかしこれは……困りましたねぇ」
「♪」
オレは主題歌のサビを口ずさんでみた。男が歌うなんざ、まさかと思うだろうから意表を突く。
すると。
「♪」
歌手さんが繋いだ。
生歌の実力にショップの店員が気付き、のみならず往来の人々も気付いた様子。
人だかりが出来てゲリラライブ。
ワンコーラス終わって喝采。女の子は泣き止み、涙でびしょびしょの、しかし少し笑みを浮かべて歌手さんを見ている。
「ごめんね。お店の人が急いで頼んでくれるから、待ってくれるかな?」
解決、と思ったその時だった。
野卑で粗暴なわめき声に聴衆が蜘蛛の子散らすように逃げ出した。
サングラスに黒いジャンパーの男が聴衆の中に乱入して来る。
「どけっ!くそっ!」
(つづく)
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