【魔法少女レムリアシリーズ】豊穣なる時の彼方から【5・終】
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族長の顔に笑みが刻まれる。そして手にした杖を高々と太陽へ。
彼女の言葉を三度繰り返す。
「プリンセス。一体何が?」
訝しげなひょろ長氏。
「風が来ます。砂が入るので各キャンプは入り口を閉ざして」
「え?」
「ハルマッタン。そばまで来ています。早く」
「わ、判った」
スタッフが走り出し、彼女は北方へ目を向ける。
遠くサハラに連なる大地の向こう、雲のように視界に広がるモヤモヤした領域。
ハルマッタン(Harmattan)。焼け付くサハラで高温高圧となった空気が、漠たる砂を伴いながら、周囲へと吹き広がる暴風。
今彼女が見ているモヤモヤは、その作り出された砂嵐である。
予兆となる風が吹き始める。普段住人達はここで気付くようだ。族長が風の来る方を振り返る。
天に向かいそそり立ち、迫り来る砂の壁。
彼女は族長、そして男の子と共に近場のテントに身を寄せる。
砂塵を伴う空気の塊がキャンプにぶつかる。
地響きに近い音を立てて暴風が狂い、テントが揺れる。あちこちでいろんなものがガラガラ落ちる。
何時間か続く。ようやく収まったのは夕刻近く。
何が生じたか彼女には判っていた。
テントから表へ出、古代の墓所に目を向けると、その一帯だけ星空になったように、夕日にキラキラ光っている。
砂嵐のヤスリが更に大地を削りこみ、埋葬されていた亡骸の装飾品が顔を出したのだ。
男の子が族長に説明している。族長は頷き、やがて大地にひれ伏す。
彼女の肩にポンと手が載った。
ひょろ長氏。
「…なるほど数多虹の石が出てきたわけだ。時にプリンセス、聞けばプリンセスの国は代々魔女を排出してきたとか。これもそうなのかい?」
彼女は何も言わず笑った。
族長が立ち上がって彼女を見る。
「(あなた様の名は。黒曜石の天使よ)」
「レムリア」
彼女は答えた。
豊穣なる時の彼方から/終
(魔法少女レムリアシリーズお話一覧)
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