【理絵子の夜話】犬神の郷-4-
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開けっ放しの玄関で温度の下がった部屋に対し、ガスファンヒータの設定温度を上げ、紳士らにコタツを勧めると、紳士らはその前に、と、部屋奥の神棚に参じて頭を下げた。
「彼女をわざわざというあたり、神様に繋がる深刻なご用とお見受けしましたが」
本橋美砂は主人氏の傍らに座して問うた。
対し紳士らは多少困惑の表情を見せ、そのうち紳士2名が組長氏を見つめた。
宿の夫婦の表情も一変する。
「お友達とあらば、よかろうて」
諦念か苦渋か、組長氏は言った。
「どうぞ、まずは笑わずに最後まで聞いていただきたいのですだが」
紳士らは、その冬山登山ルートたる分水嶺の向こう、県境越えての集落から徒歩で来たと言った。この地域は廃藩置県以前より現在の県境を越えての付き合い、共通の文化や習わしがあるが、そうした共通項の1つに地区ごとに“組”という自治組織を持っており、その長……組長……と幹部だという。ちなみに、宿夫婦の表情変化もそうした地域共通の認識、とりわけタブーに属することと気付いてのものによる。
「わでらのとごでは、毎年最初の積雪を見た日に、その年に収穫したわら束を使って占いの儀式を行う(おこのう)ておりまず」
「ああ、わらしべ伺い、ですな」
主人が補足する。
「ですだ。で、……」
近年まれに見る凶相が出た。組長は言いにくそうに言い、更に一言ずつ絞り出すように、
それは、犬神が収穫の代償に生け贄を要求している証なのだ、と言った。
「すまねえな。突拍子も無いこどで」
「いいえ、オオカミ、イヌカミ伝承は良く聞きますよ。元々オオカミは犬の姿をした神様で、って奴ですよね」
本橋美砂は柔らかく言った。漢字で書くと近親性がより明確になろう。大神・犬神だ。
「んでずだ。そで、ですな。そで……」
組長氏は言葉を繋ごうとし、躊躇し、茶を含み、ハンカチを取り出して額を拭った。
(つづく)
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