アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-003-
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相原は言うと、卓上の携帯電話に手を伸ばした。
まるで、止める手段を有しているかのようであった。
そして、彼が手に取るより早く、電話がバイブレーションで音を立てた。
相原は折りたたみの画面を開き、不敵な笑みを浮かべた。
「電話しようとしたとこさ」
対し漏れ聞こえるのは少女の声。硬くこわばった。
「知ってるよ。行くんなら乗るぜ……アルゴ号は……ああ判った。10秒くれ」
相原は答え、携帯電話をはんてんの袖口に放り込んで立ち上がった。
玄関ドアに手を掛け、一旦戻って電源のブレーカーを落とし、今度こそドアを開いて外に出る。
その時彼が目にした光景は、一般に驚愕か、夢を見ているとの認識をもたらすであろう。
玄関先、頭上に浮かぶ帆船。その船底から下ろされた縄梯子と、路上の少女。
浮かぶ船の名こそ、そのアルゴ号である。そして。
キッと一文字に唇を結び、ショートカットの小柄な娘が相原を見上げる。〝ころん〟とした、丸みを帯びた顔立ちは、見る者誰もが安堵し笑顔になるような落ち着いた可愛らしさがある。相原の携帯電話待ち受け画面の娘である。ただ、薄手の水色カーディガンは、初冬の気配漂わす東京多摩地区にはいささか寒そうだ。
「ごめん、約束より先にまた乗って欲しい……知っての通り私たちにしか出来ない」
少女は言うと、ゴツゴツした外観の衛星携帯電話をウエストポーチに戻し、耳栓を思わせる小機械を手のひらに載せ、相原に差し出した。
ワイヤレスのイヤホンマイクである。相原は手に取り、耳の穴にねじ込んだ。
「気にすんな。こっちから誘うつもりだった。操舵室聞こえますか?お久しぶりです相原です。また世話になります。行きましょう」
少女は話し歩く相原を目で追う。相原は彼女の逡巡に気付いて知らぬふりをし、玄関ドアを施錠し、門扉を開いて路上へ出、彼女へ向かって顎をしゃくる……行こうぜ。
(つづく)
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