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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-012-

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 ドクターが答える。左手で舵を握り、右手の逆L字形の加減速レバーに力を込め、思い切り奥の方へスライドさせる。INS(いんす)とは、Inertia Neutralization System。慣性力中和装置。すなわち、加速・減速時に感じる押される・引かれる力、通称Gを相殺する。原理と仕組みは略す。
 船は全速。
「ここばっかり狙うわけじゃない。しかし冷戦の構図知ってるだけ偉いな。生まれる前だろうに」
 相原はレーダ画面の北方、世界最大の面積を持つ国を指先で示した。
 レムリアは頷いた。彼女はこのアルゴプロジェクト以外でも、普段から救助ボランティアに参加している。その経験が教えるところに寄れば、出動の可能性が最も高いのは、安全保障上の不安定、および、自然災害の多発地域。
 どちらも講義や勉強会などでレクチャーを受けている。更に後者は地球のなりたちと分かちがたく結びついていると知り、興味が出てきて図書館に通おうかと思っている段階。
 ただ、前者については国家間の駆け引き、政治が絡むこともあり、人生経験の少なさも手伝ってか直感が働かない。
 思わず相原の手を握る。兄に頼る妹の心理が判る気がする。
「手伝って。間違えそうで怖い」
 レムリアは言った。頼るのは悔しい気もするが、予断で間違えるのは危険だ。
 相原は何も言わず、掴まれた手を握って返す。
 彼はその一方でトラックボールを今度は左手で回し、液晶画面をポンポンとタッチし、レーダ画面の左下に船外カメラの映像を入れる。
 黄海は悪天候であった。「西から低気圧が来ている」と相原は言った。
 推定位置に達して船が減速する。しかしそこに巡航ミサイルの姿はない。
 もう少し視野を広げる必要がある。レムリアは正面大画面にレーダの画像を映し込み、縮尺を変更した。
 画面にはエコーを示す輝点が十個も百個も現れた。ちなみにエコー(echo)とはレーダに対する反応のことだが、電波が“跳ね返ってくる”ので、“やまびこ”にたとえてエコーと呼ぶ。
「多すぎる」
 シュレーターが舌打ちし、
「雷雲のエコーでは。どう思う」
 相原に尋ねる。
「違う。ジャミング(電波妨害)だろう。で?ヘッドセットはどこだっけ」
 相原は画面から目を離さず、コンソールの周囲を手探りでまさぐった。そのヘッドホン状の機器である。
「下に無い?」
 レムリアは相原の膝の辺りを指さし、手を伸ばし、航空機の荷棚と同じハットラックの蓋を開いた。
 
(つづく)

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