アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-023-
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レムリアはドクターに目配せで舵の準備を要請しながら、許可を頼んだ。
『許可する。行け』
即答。
「判りました。ドクターお願いします。船外2人、行く先はハリケーンの中につき空電に注意」
レムリアは男達のために追加した。君らしい気遣いだと相原は評した。
「ハリケーンを突っ切る」
ドクターが言い、程なく船は巨大熱帯低気圧の、それこそ“渦中”に突っ込む。光圧シールドにものを言わせ、分厚く、手で掴めそうなほど濃密な積乱雲の中を、一気に突進する。
小さな、反応の主体が、豪雨の中に出現した。
航空機である。洋凧の如き三角翼、角張ったガラスの目立つ操縦室。そのガラスの並び方はクモの頭の8つの目を思わせる。到底安定して飛ぶようには思われない、ちょっと異様な姿。
全身真っ黒のその機の名前は、合衆国の大型爆撃機B2。
いわゆるステルス航空機の一種である。大きさは尻尾のないジャンボジェット。或いは、
死神が遣わした死の卵抱いた黒い怪鳥か。
「レーダじゃ見つからんよ。おおっと」
画面を突然の閃光が白く塗りつぶし、相原が身をのけぞらせた。
稲妻である。紫色の輝きが天裂く亀裂のように縦横に走り、暴風雨を行く黒い怪鳥が、雲にその影を映す。
アルフォンススからピン。
『私だ。B2を視認した。船体で動かすには相手が大きいので銃撃して落とす。寄せてくれ』
「人が乗っているのではありませんか?」
セレネが尋ねる。
『こいつはリモコンの無人航空機だよ。人間の操縦士に十万百万殺せる爆弾を落とす度胸はあるまい』
アルフォンススは言った。
「判りました」
セレネが答える。
「距離測定」
シュレーターが怪鳥へ測定用のレーザを走らせる。光のパルスに過ぎず、先の巡航ミサイルのように照準と認識される恐れはまず無い。
(つづく)
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