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【理絵子の夜話】犬神の郷-6-

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「だけじゃねぐ、その、お嬢さんならお解りいただけるか、法力(ほうりき)ですだ」
 諦念したように組長氏が言った。
 法力、いわゆる超能力である。しかも多分に念動力の意味合いが強い。
「超能力……それで儀式を行った彼女が欲しいと、こういうわけですね」
 本橋美砂が特段驚いた風で無くそう返すと、組長氏は頷いた。両脇の幹部氏が驚き、膝を浮かせる。
 それは組長氏が最大のタブーに言及したことを恐らく意味した。
「いんやお前ら、もうええがろ。このお嬢さんは何でもご存じだ。大体考えでみろ。……ええ……」
「理絵ちゃんです。黒野理絵子(くろのりえこ)」
「理絵子ざまのお友達なんだで。ああ、ありがでえ」
 両手を合わせて伏し拝まんばかりの組長氏に、今度は本橋美砂が腰を浮かせて制した。
「ともかく、お話し承りました。彼女にご用であれば彼女に話していただいて、彼女の判断を待つのがあるべき姿かと存じます。ただ、ひとつお聞かせ下さい。彼女に白羽の矢を立てた理由は?」
 回答。法力の存在、および禊ぎを受け清らかである。
「それは伺いましたが、であれば、彼女以外でも該当される方がいそうですが……」
「それは、理絵子さまがまるで依り代のようだったと伺いまして」
 本橋美砂の眉根が動く。
「その時この集落と理絵ちゃん達クラブのメンバー以外は参加していないと聞きましたが?」
「したが、塙の大ばば様から……」
 すると。
 奥の方の襖がそっと開けられた。
「やれやれ、どごがら漏れたもんだが」
 塙の大ばば様……主人氏の母である。
「おばあちゃんお手洗いですか?」
 女将さんが立ち上がって歩み寄る。米寿。初冬に脳梗塞を起こして入院し、暮れ正月に当たって一時帰宅。
 もってやや身体が不自由。和服愛用ではんてんを羽織っている。奥の自室でラジオを聞いて過ごしていることが殆ど。
 
(つづく)

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