【理絵子の夜話】犬神の郷-10-
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天使のような娘は自ら名乗った。
紳士らは困惑を示した。
トップシークレットに属するのに部外者がどんどん増える。
しかし。
「この登与ちゃんも同席、が、お話しをお受けする条件です。まぁ、彼女も特殊な感覚を持っていますから、隠しても筒抜けですけど」
本橋美砂は長い睫毛の瞳で言った。
超能力がある。と公言する。かなりセンセーショナルな内容だが、この場でそれは最早驚くに値しないだろう。
母君が立ち上がった。母君は理絵子らに特殊能力があることを明確に知らされてはいないが、持ってて当然という認識は醸成されよう。
「郁郎(いくろう)、幸子さん。わだしらは席を開けんべ。この子らに任すが良し」
「ああ、そうだね。あんた」
女将さんが同意して主人氏を促す。高千穂登与が加わる代わりに自分達が外れ、心理的負担を減らそうという意図もあろう。
「そうするか」
主人氏が応じて立つ。一升瓶とコップは忘れない。
「では私らは一旦」
「申しわげね(申し訳ない)」
組長氏が丁重に頭を下げ、宿の主らは母君が過ごす奥の間へ去った。
本橋美砂がオーディオの音量を上げる。無論故意である。聞かれたくないという組長一行の意を汲んで。
「改めて紹介いたします。黒野理絵子さん」
理絵子は正座して丁重に名乗った。コートを脱ぐと黒髪が潮満ちるように流れる。そして瞳は深淵に星の光を蔵す。
「都内の……」
西部某市。
「市立中学2年です」
「おお、これはこれは。私どもは……」
組長は太田代(おおたしろ)、自治体幹部らはそれぞれ神無城(かんなぎ)、櫟本(いちのもと)と名乗った。
「第二次性徴前の巫女の生け贄が必要である、しかも超能力を要する、とまでは把握しています」
理絵子がストレートに言って口火を切った。すると登与が、
「わたくし神話伝承にはある程度の知識があります。この地の禊祓の件についても掌握しています。しかし、この近辺で犬神伝承があるとは初耳です」
(つづく)
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