【理絵子の夜話】犬神の郷-14-
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「そっだら心配しねえでええげ。大丈夫だ。美砂ちゃんも理絵ちゃんも、そっちの彼女も」
母君は女将さんの表情をよそに言った。
「そう……ですかねぇ」
女将さんは逆に愛娘が一人暮らしを始めると聞いた親のようだ。
対して、
「ええ大丈夫です」
美砂が頷く。まさに“あっけらかん”である。
話は決まった。
組長氏らが元通り雪の装備に身を固め、一方美砂は制服で充分と言ったものの、こちらに来てから買いそろえた厚いセーターとコートに着替えさせられた。
「大丈夫なんでしょうけど、大丈夫なんだと思うけど、心配するこっちの身にもなってちょうだい」
雪道を歩き出す。降り続いていた雪は小降りになっており、集落外れに達した頃には殆ど止んだ。
そこに通行止めの標識。冬季は閉鎖。
「わでらが歩いてきたところも埋もれてる」
集落の中はクルマの行き来もあるため、タイヤ跡を歩く分にはカンジキは要らない。が、標識から先は別。
そこへ美砂が一歩踏み込む。スニーカーの足を雪に載せると沈むこともなくその上に乗った。
「何と……」
「法力、法力じゃ」
「いいえ、大丈夫な場所が判っているだけ。私の足跡を歩いて下されば沈むことはありません」
美砂はそれだけ言ってサクサクと……早朝の霜柱でも踏むような足取りで雪深い山道を分け入って行く。組長らは最初おっかなびっくり美砂の足跡に足を置いていたが、やがて合点が行ったらしく普通に歩くようになった。途中、櫟本氏が試しにとばかり足跡以外の場所に入ったら腿まで沈んだ。
氏を引っ張り出して行軍再開。壊れた空き家の庭先を通り、雪の重みで折れたか、道を塞ぐようにもたれかかっているクヌギの枝を押しのける。
冬枯れの雑木林を登って行く。積雪で道の所在などまるで判らないはずだが、美砂には一分の迷いもない。
(つづく)
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