アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-086-
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そこで院内放送のチャイム。先ほどの個人呼び出しと異なる雰囲気であり、応じてコミカルな看護師にも緊張が浮かぶ。
放送の曰く、首都高でバスの絡んだ大きな事故があり、急患が大勢押し寄せるという。手空きの者は対応願う。
「あのあたし……」
彼女メディアは自らを指さし、ベッドから出ようとした。
看護師が目を剥いた。
「え?おいおいうちの病院は腹の傷パカパカしてる娘を手伝わせる趣味はないよ。それにナースは充分足りてるから。寝てなさい。これは命令」
「はーい」
彼女メディアは不承不承といった風情で頷いた。看護婦はニコッと笑うと、部屋から出て行った。
視線を感じて振り返ると相原が見ている。
それはあの日の傷付いた彼、そばにいた彼、ではなく、テレビの向こうのタレントを相手を見る目。
“存在は知っているが、接点は無い”
「姫様、ねぇ」
相原はマンガに出てくるステレオタイプな中国人のように、右手をはんてん左の袖に、左手を右手の袖口に入れ、腕組みした。
「ええ」
レムリアはちょっと気取ってペットボトルの緑茶を口に含んだ。それこそ古い東洋からの使節団の訪問を受けたみたいだ。
「王女様」
相原は恭しく拝跪し、そう口にした。
王女は口に含んだ日本茶を反射的に吹き出しそうになった。
「ちょっとやめてよ」
「姫、おひいさま」
「きゃあ」
「本日はご機嫌麗しく、このはんてんの騎士、ご尊顔を拝し奉り恐悦至極(ごそんがんを はいし たてまつり きょうえつ しごく)に存じます」
相原が使った最大限の敬語は、レムリア自身はそうとは知らなかったが、古風な響きから日常的なものでは無いことは理解出来た。
王女は顔を真っ赤にして相原を見た。
「やめて……ぎゃはは……さぶいぼ(鳥肌)が出る」
その所作はやんごとなきお方共通の高貴で淑やかなイメージではない。
Tシャツ短パンで飛び回る元気な女の子レムリアである。
そして、自分、それでいい。
(つづく)
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