アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-089-
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レムリアはテレビの情報に集中している。詳しく知っても動けないが、気になる。人ごとではいられない。そのバスが湾岸の著名な遊園地に出かけた子供会の帰路と聞けば尚。
コマーシャルになった。
そこでベッド上の老男性が夫人の方を見、のっそりと起き上がり、咳をしながら部屋を出て行く。
「肺炎…」
老男性の姿が見えなくなったところで、レムリアはぼそっと呟いた。
「しかもかなり悪い…やだな」
レムリアは下唇を噛んだ。
「それは予感?」
「て言うか…あの人まさか…」
レムリアは夫人の方を見た。夫人は椅子の上でこっくりこっくり居眠りをしている。
結果、レムリアは、男性が奥さんの居眠りを見計らって立ち上がったと理解した。
「ヤバくね?」
期せずして二人顔を見合わせ、相原が懸念を言葉に起こす。
数分後、男性が帰ってきたが、先程以上に咳が酷い。
そして呼気に含まれる臭気。
二人は期せずして頷き合う。
男性はトイレか何かでタバコを吸ってきたのだった。タバコを吸う人間と吸わない人間では存在を感知する閾値が大いに異なる。喫煙者が皆無と感じる程でもあからさまという表現が使える。
「まずい……んだけど」
レムリアは呟いた。老男性の咳はゴボゴボと泡立つような音だ。いや本当に泡が立っているのかも知れぬ。肺の中に発生しうる液体・水分とは即ち。
男性はレムリアの視線に気付き、すぐに避けるように目を背けた。
そしてベッドに潜り込み、息を押し殺すようにして咳をする。布団の大きな動きから呼吸が不調であることはすぐ判った。
レムリアはもう気が気でない。
「ドクター呼ぶか」
「でも私なんかの……」
男性に異変が生じた。
機械の唸りのような異様な声を発し、勢いで布団をベッドから蹴り落とし、体を折り曲げて吐血する。
(つづく)
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