アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-090-
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「ああっ!」
レムリアと相原は同時に声を上げた。夫人が目を覚まし、突然の事態にどうしていいか判らず、立ち上がって狼狽える。
「手伝って。気道確保しなくちゃ」
レムリアはベッドを飛び出した。点滴の管を抜き、スリッパに足を入れる。
しかし
「痛!」
顔をしかめて脇腹を押さえる。筋肉を使うと痛みで力が入らない。
「待て」
相原は動こうとするレムリアを制し、両腕で抱き上げた。
男性に抱き上げられる。
レムリアはその事実に気付いたが、自分の脇腹に負荷が掛からないようにするための最善と気が付いた。
だから相原の首に腕を絡める。私を運んで。
「具体的にどうする」
相原はベッドへ歩を進め尋ねた。男性は激しく咳込み、そのたびにベッドに血の飛沫が文字通り噴き出している。まるで塗りつぶすかの如く。
「ベッドの上に下ろして。肺の中の血を出すからあの人押さえて」
「了解」
相原は答え、彼女を血の海と化したベッドに下ろした。
濃密な血の臭い。生臭さと、口の奥がギシギシする鉄さびの刺激臭。
「おとうさん、聞こえますか?おとうさん!」
レムリアは呼びかけた。が、男性はそれどころではない。苦しげに喉を掻きむしり、七転八倒しながら血を振りまいている。
肺の中で大量出血が起こり、呼吸不全になっているのだ。顔が青紫色に変わって行く。
「押さえて。仰向けに!」
レムリアの指示通りに、相原は男性の上半身を柔道“横四方固め”の要領で押さえ込んだ。
「そのまま、あ、ナースコールのボタンを!」
レムリアは言い、自分の口を使って老男性の口から血を吸った。
そして床の上に吐き出す。相原は痙攣する男性を抑えながら手を伸ばし、テレビの下に降りているコールボタンのケーブルに指先を引っ掛け、引き寄せ、押した。
(つづく)
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