【理絵子の夜話】犬神の郷-15-
←前へ・次へ→
尾根道へ出る。
「あ、自然歩道」
登与が言った。
「私たちここ歩いてたんですよ」
理絵子が追加。但し、雪が積もっている状況に変わりは無い。
「理絵子様も美砂様と同じだか?」
「ええ」
超能力のこれ見よがしは好きではないが、似たようなものですと実証する分には別段良かろう。理絵子は頷いて雪の部分に身を載せた。
勿論、同様に沈み込まない。雪面のフワフワした感じも手伝い、さながら水面に浮いているよう。
「なんと……」
「ここに足を載せればいい、っていうのが何となく判るんですよ」
超感覚というか、ただそれだけ。テストで問題を見た瞬間“答えが判る”と思うことがあるが、そういう知識と理解の故に当然、というものとは違う。因果の因を見ること無く“判ってしまう”のだ。それ以上に説明の言葉がない。
「そういうの感じられなくなったら私たち終わりですから、たまに確認がてら出歩く、と」
「その最たるところは、こういう厳しい環境で大過なく帰れることでしょう、と」
またぞろ土下座を始めそうな組幹部を二人は手で制した。
「急ぎましょう」
「お客さんだよ」
場違いな言葉を、美砂が言った。
5
向かう雪山の中程を指さす。しかし、それが見えたのは少女3名。
「あにが(何か)霊的なもんだが?何も見えねが」
「いいえ。野犬です」
「い、犬」
組長らの露骨な狼狽を少女達は見て取った。
「オオカミでは無いと思いますよ」
「何もしないよ。通らせて」
登与が言ったら、通常の肉眼では何も見えなかった雪山の中腹に動きが生じた。
雲の中の雲のように白い獣が存在し、雪中に足跡と、伴う雪面表層の乱れを伴いながら行く手に降りてくる。
一行の少し先に降り立ったのは確かに犬。雪のように白く、炎のように逆巻く毛並みの痩せた犬。一行を少しの間見つめ、顎をしゃくるようにして歩き出す。
(つづく)
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -11-(2023.01.25)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -10-(2023.01.11)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -09-(2022.12.28)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -08-(2022.12.14)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -07-(2022.11.30)
「理絵子のスケッチ」カテゴリの記事
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -11・終-(2022.04.30)
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -10-(2022.04.16)
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -09-(2022.04.02)
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -08-(2022.03.19)
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -07-(2022.03.05)
コメント