【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-01-
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上半身が起こせる介護用ベッドに、パジャマを着た男の子が一人。
ベッドを跨ぐ形で設置されたテーブルには、極めて分厚い本と、何やら機械が載っている。
本は一見して古さが際立つ。表紙は何と木製、すなわち木の板であり、留め金が付いていてロックできるようになっている。本文は紙ではなく、なめした羊皮。文字は印刷ではなく、一文字一文字焼き入れで刻んである。
機械の方はL字型のロボットアームを持っており、アームはページ端を押さえている。
ページめくり装置である。
装置からはUSBのケーブルが垂れ下がり、ベッドサイドの小テーブルにあるノートパソコンにつながれている。
男の子は口にくわえたアクリル棒で、パソコンのキーを叩いた。
ロボットアームが動いてページをめくり、アームがくるりと円を描いて回転して戻り、次のページの端を押さえる。
「(こんにちは)」
壁をノックする軽い音があってフランス語、少女の声。
男の子はくわえていたアクリル棒をパソコン傍らのコップに入れ、振り向いた。
「(お姉ちゃん!)」
お姉ちゃん、と呼ばれた少女はしかし、言語から想起されるイメージと異なる黒髪の娘で、秋葉原や原宿で見かけそうな容姿雰囲気である。少女マンガのヒロインを思わせる黒く煌めく瞳。髪の毛は肩に僅かに掛かる程度で、ジーンズ姿もあって軽快な印象。
対し、男の子は黒檀の肌の持ち主であり、パジャマの両腕を伸ばした……ただ、その腕は包帯が白く巻かれ、肘から先の部位が存在しない。足も然り。
男の子の家は、政府軍の爆撃に遭い、彼の手足と、両親と、兄弟達と共に破壊された。
彼女がボランティア活動で野戦病院にいた時に担ぎ込まれた。
続く戦闘と爆撃は彼の心をむしばむと判断され、彼女の現居住地であるオランダ・アムステルダムの小児病院へ引き取ったのである。
(つづく)
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