【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-02-
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「(マジックショーはいつなの?)」
男の子は尋ねた。
「(来週だよ。今病院と打ち合わせしてきたところ)」
彼女は言い、自身の手を握り、手を開き、それこそマジックの手法でキャラメルを取り出し。
「(どう?その本。面白い?)」
訊きながら前かがみになり、男の子の口にキャラメルをころり。彼女はボランティアで医療活動をしている看護師であるが、年齢は14である。活動の一環として小児病院・病棟を回り、マジックショーをしている。ホスピタルクラウンと称される活動の一つ。
「(面白いって言うか、すげぇや)」
彼は8歳の男の子なりの無邪気な笑顔でそう応じたが、すぐに、不意に消えた火のように、床面の何もないところを見つめた。
とにかく長い長い面白い本を持ってきて……退屈しのぎであろう、男の子の求めに応じて用意したのが、古いその本である。彼女の実家に伝わる物で、技法体裁で判るように、グーテンベルク以前の産物。
「(この機械。こんなのどこで売ってるんだ?)」
取って付けたように、男の子は彼女に笑顔で訊いた。
「日本、東京、秋葉原」
彼女は即答した。すると男の子は驚きを小声にした上で、
「(ジャポン!マンガの国だよね!え?行ったことあるの?)」
興奮気味に訊く。〝ジャポン〟というフレーズは、男の子に別な興味の火を新たに点けたようだ。
ただ、頷いていいものかどうか彼女は躊躇する。恐らくは、生まれてこのかた戦乱しか知らない彼達に、平和の象徴とも言えるかの国はどう映っているのだろう。
「(友達がいてね)」
結局、彼女の妥協点はそこ。ウソは言ってない。
「(日本の友人か。オタクか。いいなぁ)」
彼は言い、再びフッと表情を曇らせた。
短時間に極端に感情が変化するのは、大きな、大きな、耐え難い傷を負った心によくあること。端的には、ことあるごとにフラッシュバックするから気分がしぼむ。
(つづく)
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