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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-03-

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 そういう場合に周囲が出来るのは、それを否定せず、結論を急がず、全て受け入れること。
 誰に対しても、同じ光を投げかける……月になった気持ちで。
「(この本ってさ……)」
 パソコンが、スクリーンセーバーに切り替わるくらいのタイムラグを経て、彼は言葉をつないだ。
「(昔むかしの冒険の記録だよ。人間が移動するには歩くか船しか方法がなかった頃の)」
 彼女は言った。
「(だから、全部本当のことなんだよね)」
「(えっ?)」
 答えに詰まる。各エピソードが伝聞をスタートにしているのは確かだろう。だが、尾ヒレや脚色が多分に含まれており、事実とは限らない。むしろ言えない。自分が読んだのは幼い頃なので記憶が怪しいが、ドラゴンやシーサーペントが〝実在〟として出てくる。
 そもそもは過去、魔法の普及と活用に関する資料の一環として著されたもの。それは現代人には体のいいおとぎ話。
 彼女が答えの言葉を用意している間に、男の子は再びスティックを口にくわえ、ロボットにページを戻させる。
 ジージーと音を立ててロボットが動く。現れる話が変わる都度、男の子が装置の動作を止め、この話は……と短くコメントする。結果、56ページ戻るのに250秒掛かった。
「(これだ)」
 ゴール?地点のその話は、タイトルを〝夜無き国の火を噴く氷〟。
 あらすじは次の通り。みなしごの青年が自分の親を知りたいと思い、魔法使いに訊いたら、そういう氷を見つけて食えと教えてくれた。彼は冒険に旅立ち、時を経てようやく見つけてその氷を口に含むと、確かに両親が目の前に蘇り、しかし、直後彼は息絶えた。旅立ちを決意してから70年後のことだった。
 但し、具体的にどこの国かは推測できない。雪山を越え、怪物跋扈する大森林を抜けると夜無き国であり、海を渡ると氷の島があって火を噴いている、とあるだけ。
 
(つづく)

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