【理絵子の夜話】犬神の郷-20-
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「香取・鹿島って千葉と茨城の?」
美砂が尋ねた。
「そうです。当時から大神宮。文字通り倭国の東の端にあって東から来る魔界勢力から国土を守っていた」
「登与様、鹿島ちゅーのは、あの鹿島さまだが?霞ヶ浦の塚原卜伝(つかはらぼくでん)の鹿島さまだが?」
組長氏が尋ねた。剣豪で知られる卜伝は鹿島神宮の祠官の子。
「ええ、その鹿島様です。ですから、今のくだりは承和期の出来事ではなく、ヤマト王権期の伝承に言及しているかと。ひょっとすると日本武尊の東方征伐行と絡んでいるかも知れません」
登与が説明を追加した。香取・鹿島の設営はそうした神代まで遡る。当時関東は広大な湿地であり、その名残が霞ヶ浦、北浦である。両神宮はこれら浦が内海だった頃、存在した島の上に向かい合う形で建てられた。
「ヤマトタケル……」
組長らの顔色が変わる。登与の説明は仮定に過ぎないが、日本神話の王道を行く名前の登場は、この信心深い者達に非常なインパクトを与えたようだ。
「続きを読んでも……」
「ああ、ああ、済まねぇ」
時代は下り、神代の出来事は忘れ去られた。しかし、その化け物を埋めた場所すら判らなくなった頃から、大ナマズが夜な夜な地鳴りを立てて山野を徘徊、人を食うようになった。
「ナマズは魚でしょ。何で山野を?」
理絵子は訊いた。
「群発地震の類と見たけどどうだろう。たびたび地割れや山崩れが生じて落ちたとか」
美砂が言い、理絵子は頷いた。ナマズと地震、ああ、なるほど。
「ひょっとすると香取鹿島のご加護ってのもその辺と関わるのかも。どっちにも地震のナマズを封じたという要石があるから」
登与の説明に理絵子と美砂は頷いた。ちなみに、この時点で彼女らは与り知らぬが、追って2011年、日本では有史以来最大となる東北地方太平洋沖地震が発生し、この際、鹿島神宮の鳥居が倒れたのは何の因果か。
(つづく)
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