【理絵子の夜話】犬神の郷-22-
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その先の言葉は留保する。それでナマズとやらにどうやって挑む?
オオカミを味方に地震と戦え?
イメージが沸かない。というか、当該オオカミに会って意図を聞かないと何も始まらないだろう。
そして、恐らく、そのオオカミは本当のオオカミ、すなわち生き残りのニホンオオカミでは無い。オオカミ、或いは犬の姿をして恐れられている何か、だ。
登与が続ける。
「最後になります。手なずけよ、さすれば救われる。生娘の戻らぬ場合の行く末は神のみぞ知る」
神のみぞ……つまりは判らない。ただ、判らないのは娘の行く末なのか、娘が戻らないことが失敗を意味し、その結果集落がどうなるか知らない、という意味なのか。
同じ疑問を登与も抱いたようである。書物に手をかざして超感覚を働かせている。何か意図が感じ取れないか、ということだ。
比して目の前の現実、すなわち集落はこうして存在しており、自分の知る限り大きな地震が頻発したという知見は持っていない。関東及びその周辺で生じた被害地震は、関東大地震系、東京直下系、房総沖系、伊豆半島東方、富士山周辺、そんなところか。
「隠蔽はあるよ」
美砂が言った。理絵子の認識を踏まえてのこと。
「理科年表とかの地震は、大学の集めた文献が元だけど、見つかったものしか載ってないからね。被害甚大のところ他国に攻められ……を恐れた為政者が無かったことにして都に報告も上げなった。は充分あり得るよ」
「或いは壊滅しちゃって残す人すらいなかった」
理絵子が言ったら、組長氏が床に手を付いた。
「理絵子様、それはご勘弁を」
「これは失礼、言い過ぎました。ただ、この書物が神代からのものであるなら、そうした大きな災害は被らなかった、という意味でもありますね」
フォローしたつもりだが、組長らの怯えは払拭できない。
(つづく)
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