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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-05-

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 彼女は唇を噛んで言い、ジーンズに巻いたウェストポーチに手を伸ばした。
「(えっ!?)」
 彼が逆に驚く。日本に友人自体はウソではない。
 見つめる男の子の前で、取り出したのは衛星携帯電話。一見すると軍用無線機を思わせる無骨さ。
 窓際に立ち、数百キロ彼方の電波を捕まえたことを確認し、発呼する。今の日本の技術でも最早見つからない。過去あったが今はない。そう言ってもらうのも、残酷だが一つの手だと思うからだ。自分が言ってもいいが、当の日本人なら説得力があるだろう。サンタクロースじゃないが、やがて無いと明らかになるもので誤魔化すのは二重に傷つけるだけ。
 呼び出し音。相手は歳8つ離れた勤め人の男であるが、日本は土曜の夜であり邪魔にはなるまい。
『はいよ。どした?マヌエル君の見舞いだろ?』
 相手が自分のスケジュールを把握しているのは、インターネットを介してコミュニケーションを取っているから。
 それで会話するのが寝る前(※)の習慣になっているせいか、声を聞いたら自分自身少し落ち着いた。(※オランダの午後11時で日本は午前7時)
「あのさ、古代の伝説に出てくる〝夜無き国の火を噴く氷〟って何だと思う?」
「(すっげー日本語だ!)」
 マヌエル少年が驚く。彼女は12カ国語を操る。
 声がデータ処理され、700キロ彼方の衛星に向かい、衛星間を中継され、アメリカ大陸にあるパラボラに降り、国際通信回線に入り、光ファイバケーブルで太平洋を横断し、日本の通信網を走り、携帯電話システムに載り、彼の電話に届き。
 恐らく彼が答え、同じ経路を通って戻る。
 その、タイムラグを、日本側が何か調べていると捉えたか、マヌエル少年は聞き耳を立てて彼女を見ている。
『アイスランドの氷河割れ目噴火のことだろ』
 あっさり訪れた答えに、マヌエル少年がこちらを見る目を輝かせた。
 
(つづく)

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