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【理絵子の夜話】犬神の郷-23-

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「前回はいつ?」
「安政の頃、と聞いております」
「記録は……」
「残念ながら……」
「あるわけないか」
「やってみりゃいいじゃんって気がするのは私だけ?」
 美砂が口を挟む。
「伝承を真実とするなら、判る者には判る時に判るんだよ。だから残ってないし残す必要も無い……えーと、揺れます」
 予感があり、美砂が言葉を遮り、地鳴りがして地面が震える。
 地震だが、震度と規模は腰を浮かせるほどでは無い。理科年表か新聞か忘れたが“滅多に地震が無い土地なので、誰かが家を揺らしているのかと思った”みたいな住民インタビューを見たことがある。感想としてはそれと同じ。
 しかし、組長らがひれ伏してしまう。揺れと言うより神秘的な恐怖の故に。
「ナマズ様の宣戦布告?」
「まさか……あの、お顔を上げて下さい。恐らくは単なる偶然です」
 そう言って組長氏が素直に納得するとも思えなかったが、しかし、
 顔を上げて動かざるを得ない事態が生じた。
 誰かがこの建物に走って近づいてくる足音。
 


 
「疫病神、疫病神だ!」
 などというセリフと共に農機具を武器よろしく振りかざす……一揆の再現のような場面に彼女達は出くわした。
 建て屋の引き戸が荒々しく開かれ、そうした人々が彼女らの引き渡しを要求する。
 誰が誰だか判らぬようにするための故意であろう、ぼろ布を着ぶくれ、顔は忍者のように手ぬぐいで覆って目だけ出している。
「落ぢ着げ。あに失礼言ってるだ。理絵子様だぢはおでらのお願いを聞いて下さるちゅーんだど」
「嘘こくでねぇ。この娘ゴだぢが来でがら地震(なゐ)がひどくなっだでねぇか」
「んだんだ!ナマズ様のお怒りだ」
 排他だ。理絵子が得た印象がそれ。
 ナマズ様が生け贄を嫌っている……という口実の元に、よそ者を入れたくない。
 
(つづく)

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