【理絵子の夜話】犬神の郷-24-
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秘密の多すぎる集落のようであり、気持ちは判らぬでは無い。ただ、生け贄である自分達を受け入れないなら、見舞うであろう運命にどう対峙するのか。
……まぁ、その辺書いてあるのはこの書であり、この怒れる人々は知らないか。
つまり、真実を知らぬが故に現状を維持したい。変化をもたらす者は去れ。
ああそういうことか。
美砂がスッと座をいざり、怒れる人々に向かう。
「私どもをナマズ様がお気に召さない……というのが皆さんの見立てと……」
「黙れ!よそ者が知った風な口聞くでねぇ!」
「組長!あんでごんなどごの馬の骨かもわがんね小娘に、ったらこど(そんなこと)喋っただ!」
その対立に割って入るように、咆哮が雪原を呼ばわる。
狼の遠吠え……に聞こえたのは、これまでの会話に基づく心理バイアス。
が、もちろん、集落の人々には強い作用を及ぼした。
「犬神様じゃ」
「犬神様までもお怒りじゃ」
「娘ゴども出てけ!」
「そうじゃそうじゃ!……出てがねならブチ殺すぞ」
とても21世紀日本で交わされるコミュニケーションとは思われなかった。スーツ等洋服を着ている自分達は時間旅行者だ。
「もう我慢なんね!」
農機具を振り上げる男性あり。石つぶてを手に身構える若者有り。
その瞬間、“風”の如きものが攻撃者に向け動いたことを理絵子は感知した。
それは、空気、ではない、“空間を支配する何か”がごそっと動いたというのが正しい機序であるようだった。
念動力。攻撃者達はそのまま、身体が動かせない。
美砂は別段大げさなアクションや真言を唱えるなどしたわけではない。
彼女の念動は物理法則に干渉する……すなわちイエス=キリストが見せた奇蹟、安倍晴明・弘法大師に代表される“スプーン曲げの化け物”とは機序が違うらしい。
(つづく)
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