【理絵子の夜話】犬神の郷-27-
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透視という能力の存在を知るが、持ち合わせていない。自分の超感覚及ぶ範囲は意識波の関わるものに限定と書けば良いか。人の意識・情動の介在しないアクションには、感知や介入が不可能なようだ(作者註:但し、暗がりでも見える、及び、閉まっているカギを開けてしまうという能力だけはこの条件に当てはまらない)。
示唆降りよ。オン・アラハシャ・ノウ。……文殊菩薩真言。自分達三人、三人寄れば文殊の知恵、からの思いつき。
-犬。
放り込まれた言葉に、災害救助犬と同じ事だとすぐ理解した。そして、今、“ツテ”はある。
〈来なさい!〉
極めて強い調子で理絵子は超常の命を飛ばした。テレパシーを意図して放り込むなんて滅多にやることでは無い。ちなみに応用で、“他の意志を当人の思いつきのように”認識させることが出来る。Aという考えをしないはずなのに、Aをあたかも当人が思いついた結論のように思わせるのだ。催眠術に近い。
雪山の向こうで遠吠え。命令に対する応答。
「犬神様じゃ」
「犬神様が……」
「違います。手伝いに来るように命じました。ここに一人埋もれているようです」
「ここは……佐伯のばあさんじゃないか」
「本当かね、お嬢ちゃん」
「木材をどけましょう。手伝って頂けますか」
周辺事情はどうでもいいのである。本質にして今できることをお願いする。
背後に美砂がいる。
「美砂姉(みさねえ)……」
「待って、そこ動かしたらだめ。積もった木材の質量が重しになって反対側の倒壊が防がれている。どかすと崩れる」
やじろべえは片方空っぽにすると反対側がぐしゃっと落ちる。
周囲が騒がしくなる。犬が来たのだ。白い犬の群れが来、住民達の間を駆け抜ける。
犬たちは現場に着すると、理絵子の命を待つまでもなく倒壊した木材の上と周囲を嗅ぎ回った。
(つづく)
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