【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-09-
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それは、彼女においても見慣れた情景だったが、いつもと違うのは、その足もとに、プロカメラマンが持ち歩くような、立方体に近い形状のジュラルミンケースがあること。
「(以上で終わりです。どうもありがとう)」
3日後に誕生日というおばあちゃんに花束をシルクハットから取り出し、みんなでお祝いして会はお開き。
自力で、或いは車いすや介護ベッドを看護師や助士が押して、めいめい自室や病棟に戻って行く。
残ったのはマヌエル君と、彼女と彼と、マヌエル君の主治医の男性。
この病院のイベントホールはドア壁で仕切っているわけではなく、ガラス天井から陽光が注ぐ、いわば〝屋内の中庭〟であるが、午睡タイムに入ったこともあり、行き交う入院入所者の姿は見えず、事実上彼らだけ。
「(え?え?)」
自分だけ特別扱い、の雰囲気にマヌエル君はたじろいだ。ちなみに彼の車いすは彼女が担当してきた。
「(特別マジック)」
彼女は言った。
「学(まなぶ)」
学と呼ばれた日本の彼、相原学(あいはらまなぶ)が、傍らのケースを持ち上げて歩き出す。
「ぼんじゅうる」
「(日本から来ました)」
彼女の通訳にマヌエル少年は目を見開いた。
以下、彼女の通訳後の状態で記す。
「(日本のあんた、その持ってるものは……)」
「夜無き国から火を噴く氷を持って参りました」
「(なるほど、君が食いたいと言ってた奴だな、夢が叶ったなマヌエル)」
主治医氏も興味津々。但し、氏がここにいるのは、マヌエルの不安定な心理を踏まえてのこと。彼女が事の次第を話したら、〝氷〟で心が溶けるのか見届けたいと同席を申し出たのだ。なお、マヌエルはフランス語、主治医はオランダ語である。
「あの、お願いしていた奴を」
相原が何か主治医に頼み事。
(つづく)
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