【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-10-
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「(おお、これだよ。ミスターニッポン)」
主治医が差し出したのは分厚い手袋。相原学が彼女を通じて事前準備を依頼したもの。
相原学はマヌエル君の車いすの前にジュラルミンケースを置き、留め金を外し、借り受けた手袋を手に嵌めた。
「(手に持てないほど冷たいのか?)」
マヌエル君が尋ねた。
「マイナス25度。ドライアイス並だ。素手で持ったら皮膚が損傷してくっついてしまうよ」
相原学はそう言いながら、ケースの蓋を開けた。なお、病院には多く液体窒素冷却されたサンプル等の扱いがあり、この種の手袋は珍しい物ではない。
中の冷気に空気中の水分がサッと凝結して霧を生じる。相原がパタパタ追いやると、黒に着色された発泡スチロールの容器に、理科の実験でおなじみの三角フラスコが嵌め込んであり、その中に、〝氷〟が入っている。
一見すると砕いた氷菓の如し。
「これが、火を噴く氷だ」
相原学はフラスコを傾け、霧たなびかせるそれをコロコロと手袋に載せ、握り砕いて幾らかのカケラとし、その一つを持ち、少しそのまま置いた後、これまた主治医から借り受けたライターの炎を次第に近づけた。
「(おっ!)」
ボッと音を立てて氷が炎を噴き、マヌエル少年が目と口を揃えて丸くする。それは固形燃料か、或いは角砂糖に点されたブランデーの炎か。
文字通り氷が直接燃えるという状況を呈しながら氷は溶け、炎もろとも消えた。
マヌエル少年は声も出ない。
「(判ったぞミスターニッポン。メタンハイドレートだ)」
主治医が指をパチンと鳴らした。
「ざっつらいと」
相原学は言って、手袋をマヌエル少年の腿に置き、もう一度そこで燃やして見せた。
「(それを食うのは医師として感心しないぞマヌエル)」
(つづく)
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