【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-11-
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メタンハイドレート(Methane hydrate)。
高圧・低温の環境下で、メタンガスの分子が水分子に取り囲まれ、そのまま凍ったもの。シベリアの永久凍土で成長したのが有名であるほか、深海底でも見つかった。20世紀後半には、日本の太平洋岸の海溝沿いに豊富に含まれていることが判り、燃料として産業化が模索されている。
「(オナラの塊を食うかい?)」
主治医はスカンクに遭遇したかのように鼻をつまんで見せた。なお、確かに“屁”の主成分はメタンであり、メタンガスすなわちオナラのニオイというイメージがあるが、屁の悪臭成分は別である。メタン自体は本来、無色無臭。
「(実際食ったら腹の中で膨張するだろうな。気体の圧縮だし)」
主治医の問いかけ。
「おっしゃる通りです。溶けると体積は100倍以上になります」
相原学の答え。
「(君は爆発しちまうぞマヌエル)」
マヌエル少年は膝の上で燃えるハイドレートを見つめ、燃え尽きるまで見つめ、そのまま動かない。
相原学は手袋を取り、ジュラルミンケースの蓋を閉めると、マヌエル君の前に座り込み、見上げて顔を覗き込んだ。
「レムリアから話は聞いた」
相原学は言った。レムリアは彼女のこと。本名は別だが、マジックショーの芸名をネット上でのハンドルネームに使っており、相原も日常彼女をこの幻の大陸の名で呼ぶ。
「夢叶えられなくてゴメンよ。でもね、現代は本が読めてパソコン叩いて論文書けりゃ学者になれる。こいつは見た通り石油に変わる燃料として期待されているが、海の底から取り出すのは難しい。シベリアの土の中で凍ってる奴は温暖化で溶け出している。メタンの温室効果は二酸化炭素の比じゃない。温暖化が進めばもっと溶け出すし、蒸発したメタンに火が付けば、火を噴く氷なんて悠長なことは言っていられなくなる。確かに君の手足はとても悔しいと思う。だが、このように解決するべき課題満載。そして、人類の未来を背負うのに決して手足は必須じゃない」
(つづく)
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