【理絵子の夜話】犬神の郷-29-
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真言を掌に載せ、胸元に手技一閃。
佐伯さんという老年の女性は、咳き込むと同時に、口腔より雪の塊を吐き出した。
にわかにガタガタ震え出す。体温が下がっているので当然の反応。
「おお、気が付いたけ。さ、暖かいとこさ」
「んだんだ」
背後に登与が来た。と理絵子は知った。
言葉にされずとも伝わる。他に集落内で人的な影響はないとのこと。
めいめい、外套や防寒着を一枚二枚脱いで佐伯さんにかぶせる。戸板の上に横たえ、男手で移動開始。
美砂が倒壊家屋から飛び降りる。直後、やじろべえがバランスを崩し、ガラガラと大きな音。
数十から数百キロの木材が動こうとするのを美砂は止めていたのだ。理絵子は知った。
佐伯という女性を先ほどの建物、集会所に運び込む。
囲炉裏の炎が一段大きくなったが、気付いた者は無いようだ。
美砂は火をも操るのだ。発火能力をその筋の用語でパイロキネシスと言うが、それだけで表現できない自在さを彼女には感じる(と、テレパシーで美砂がぽつり。煽るだけ、着けたりは出来ないよ)。
「この子らが見づげでくれだども」
佐伯さんが落ち着いたところで、組長氏は彼女らを引き合わせた。
この出会いが重要な意味を持つのは考えるまでも無かった。佐伯というのは、その古文書に出てきた名前そのものだからだ。
「村の子(ご)じゃねぇな」
佐伯さんは外見と一致しない、転がるような声で、3人に問うた。
「ええ」
「ごんな格好でごめんよ。組長に呼ばれたんらかね」
「ええ、先ほどこれを見せて頂いたところです。そこで地震が起きました」
美砂は巻物を手にして見せた。その動作に組長が首を傾げる。何故なら、組長の記憶では、先ほどの“一揆”状態の時、組長自らが巻物を所定の場所に戻したからである。
それを今美砂が持っている。すなわち、
〈テレポーテーション!〉
〈手品に近いよ。この位しか扱えないし〉
この会話はテレパシー。
(つづく)
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