【理絵子の夜話】犬神の郷-31-
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美砂が言った。駆け寄った犬らはそのまま彼女らの傍らに座り、さながら相槌を打つように時折尻尾を緩く振っている。
命令待機、そんな風情。
「組長だらは、あなだだち3人を指定したらかね」
「いいえ当初私だけです。ただ、ご一緒させて頂く事を条件にしました」
「だったら、『知らずして呼ばう時、より大きな謀(はかりごと)の暴かれる時』さね。その書のどこかにあるはずだよ」
水を向けられ、登与は古文書をくるくる進めた。
初めての書物で、指先で触れないと読めないが、彼女には当然のようにここと判った。
「『隠されるにつけ込んで悪事働くものあり。悪事の故に秘は秘とされ明かされる時を待つなり』さらに、『知らずして呼ばう時、より大きな謀の暴かれる時』。なんか、ナマズは地震そのものでなくて、地震に引っ掛けて隠された何事か、という気がしてきました」
登与は言った。
「地震は隠語って?」
「有り体に言えばそうですね」
「じゃ、この地震は?」
「元々多いこの地を選んだ。隠語に合わせるために」
美砂と登与のやりとりを聞きながら、理絵子は“根底に存在する闇・穴”という印象を持った。何かしら裏の社会・秩序が存在し、そことの接点がこの集落で、対決の構図がナマズと犬神の戦いに象徴されている。
そして、最後の戦いになった時、犬神側が複数になる。
「ハルマゲドン、みたいな」
理絵子の意識を読んで美砂が言った。新約聖書の黙示録、描かれた天と魔との最後の戦いハルマゲドン。ノストラダムスの予言とくっつき、1999年に地球を襲う災厄がそれだと言われた事があるとか。
「大げさすぎるけどコンセプトは同じ、かもですね」
登与が言った。そして。
「であるなら、この書の最後にこうあります。おとめ達犬神を伴い端境の……え?これ」
(つづく)
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