【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-14-
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「さて、飯でも食いに行くか?」
車いすを見送り、そのままストップモーション状態のレムリアに相原が言った。
彼女は振り返って彼を見る。ポケットに手をしたメガネの顔はいつもの笑顔である。
ちょっとヒゲの目立つ。
その姿がゆらりと歪む。
「おおどうしたいきなり。メタン目に飛び込んだか?」
おろおろという口調で自分に手を差し伸べる相原の腕の中に、レムリアは逆に飛び込んだ。
泣く。
中から沸き上がる衝動に任せて泣く。自分でもどうしたかと思うくらい大声で泣く。
爪立ててしがみついて泣く。もう幼女に戻ったように。
相原が狼狽えたのは、レムリアの目から突如涙があふれ出したのを見たから。
「……さい」
〝ごめんなさい〟と言いたいのだが言葉が紡げない。
「……っぱい、……したのはあたし……のに、あなたに……押しつけ……」
〝失敗したのはあたしなのに、解決をあなたに押しつけた〟
どうにか言葉にしようとするが、それよりも何よりも、
そんなことどうでも良くなった。
爆発するように涙と泣き声が止まらない。みっともなくて情けないが、それよりは全部出してしまいたい。
相原が自分を抱き止め、周囲から隠すように両腕でキュッと締めたと判った。
そのまま身を預ける。抱きしめられるのは何度目か。彼が自分に好意以上の好意を抱いていることを知っているが、それを当然のように思っている自分を確認する。その立場に甘えている自分を知っている。
知っている。そう、だから、頼った。
何とかしてくれるだろうと思って、窓際から電波飛ばした。
寄りかかっている自分と、支えてくれる彼と。
この状態が当たり前で、居心地がいい。
「……ごめんなさい」
どれほど泣いたか時間の感覚がない。どうにか苦労して出した声は干からびていた。
対し特に言葉はなく、ハンカチが出てきて目の下を拭う。
「どうせありもしない話だと思って、でも、彼を落胆させたくなくて。だけど、ウソは付きたくなくて」
ゾッとする思いが浮かぶ。まさか学の出張なんて実はウソで、ただこれだけのためにジェットで半日1万キロ飛んで来た……。
(つづく)
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