【理絵子の夜話】犬神の郷-32-
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そこで登与は読むに詰まった。美砂が代わって、
「ああ、女陰口(ほとぐち)。子ども産まれるところさね。そこに入れと。昔の人は地形を人体に例えたから、多分、そんなような窪地(あち)か穴でしょう。溶岩風穴を女体入り口とか呼ぶでしょ。同じ」
美砂は表情一つ変えず、どころか“ずけずけ”という印象すら持つ歯切れの良さで説明した。比して、14歳おとめ端くれとして頬赤らめて然るべき言葉が飛び交ってるな、と理絵子は思った。が、そうならない重い理由がそこに隠れていることにも気付いた。
何故なら、そういう命名は言わずもがな“原点”を暗喩するからだ。日本の神話で最初に書かれるのは男女の逢い引きと性行為である。この巻物の依拠を神話に取るなら、同等の高位の意図がこの地に隠されていることになる。
ああ、という納得感と共に、それで正しいと理解する。古の神社に連なる伝承、日本武尊を彷彿させる物語、シンクロしているではないか。
「行きましょう」
理絵子は言った。しかし。
「女陰口がどごがわがんねんだ。書いてねぇべ?」
佐伯さんがため息。
「おめさんらが探して見つけろってことだが思うがよ」
「でしょうね」
「この雪だ。どうしたもんだが思うだよ」
「あのー、佐伯のばば様よ」
組長が呼んだ。
「雪ならこの娘ゴだち問題ねぇべと思うだよ」
あの小技を披露しろということだ。彼女達は気付いた。
めいめいスニーカーのまま積雪の上に立つ。
「これは……」
居合わせた人々は一様に驚いて見せたが、当の佐伯さんは特段顔色を変えるでなく、ただ、ゆっくり頷いて笑みを浮かべた。
「頼んでいいらかね?」
「ええもちろん」
「ほっだら、任せた。その犬コたちはそれぞれおめさん達の守り犬だ」
「よろしくね」
(つづく)
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