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【理絵子の夜話】犬神の郷-34-

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「富士山ってカルデラ……」
「じゃないコニーデ。カルデラなのは箱根山。でも遠すぎる」
「君たち、何か知ってる?」
 理絵子は犬らに問うた。それは息詰まった議論のガス抜きを狙ったギャグのつもりだったが。
「普段、どこにいるの?」
 それが解決の糸口であると、質問を発してから知った。
 犬は穴居民族だからだ。
 走り出す彼らについて行く。それは西でも東でも無く、北の方。雪崩で塞がれたとされる方だ。途中、三角コーンやら並んだ急ごしらえの通行止め柵があり、そこから先で雪崩が生じたと判る。
 犬たちはその柵を越えて分け入る。方角は正確に真北のようである。
 何か意味があるのだろうとは思う。雪崩のせいか雪が周囲より減少している、全層雪崩であったらしく、ところどころ地肌が覗いている。それは変なたとえだが、表面のクリームだけ舐め取られたケーキのような状態。
「雪崩が起きてたら行くのを避けるだろう。普通、隠すとしたらそういう場所だもんね」
 美砂が言った。だとすれば、雪崩は意図的、ということになるが。可能なのか?
「故意の雪崩、あり得るでしょ。大きな音を立てるな、とか、足跡が切り取り線みたいになってそこから崩れた事故とか、そんな推理ドラマのトリック、聞かない?」
 登与が言った。あり得ることだろうが、故意となると信じがたく思えるのは、推理ドラマという奴が嘘くさいからか。
 結論さておき雪崩によって切り取られ、雪の断崖とでも称すべき状態の場所を犬と共に歩く。ほぼ尾根の上であり、雪崩は斜面全体に及ぶ大規模なものであることが見て取れた。
 程なく、犬が立ち止まった。
 こちらを振り返り、指示待ちというか、困ったような。見れば行く手の尾根線は途切れており、大きく崩れ落ちてV字状の谷になっている。
 
(つづく)

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