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【恋の小話】カエルの子はかえう

 夏になって、カエルが鳴くと、いつも思い出す心残り。
 小学校最後の年、好きだったあの娘に「プレゼントだよ」とウソ付いて、顔にカエルをくっつけて泣かせた。
 悔しかったから。
 ずっと、ずっと、オレと仲良しだったのに、急にあいつと喋るようになったから。
 悪いことしたかな、とちょっと思った。カエルが嫌いなこと、もちろん知ってた。
 親に言いつけるかな、そしたらオレ怒られるな。そしたら、謝ればいいや。
 でも、何も言われなかった。だから、謝るタイミングを失った。
 そのまま、何も喋らないまま、オレは卒業し、引っ越した。
 後悔したのは、ずっと、ずっと、後になってから。
 傍らにいつも長い髪の毛が眠るようになってから。
 辞令に懐かしい街の名前を見た時、オレは最初にあの娘の所に行こうと決めた。散歩してくるから……よちよち歩きの手を引いて連れ出した。
 過ぎた時間は長すぎた。知らない道が出来ていたし、知ってた田んぼはもう無かった。
 公園も遊具がすっかりボロボロにさびていた。この向こう、そう思った時、公園と判った子どもが走り出した。
 砂場で遊ぶ知らない子。一緒に遊ぼう、オモチャ貸して。おいおい。
「ああ、ごめんなさい、いきなり」
 オレは保護者と思しき若い女性に頭を下げた。
「いいえ構いません。……私も小さい頃近所の男の子にやられました」
 その笑顔。あれ?まさか。
 すると。
「かえう」
 砂の中から、緑色のアマガエルを見つけたのはウチの娘。
「パパ、こえ、こわがるひともいるんだよね」
「えっ」
 目を丸くしたのは若い女性。ああ、やっぱりそうだ。
「そうだな。パパ小さい頃、仲良しだった女の子の顔にカエルくっつけて泣かせたことあるんだ。でも、ごめんなさいっていうの忘れちゃってな」
「でも、その女の子は、その時の経験のおかげで、大きくなって生まれた男の子と、一緒にカエルで遊べるようになったんだって」
 どうやら、うちの子に最初の友達が出来そうだ。
「パパ、ごえんなさい、は?」
 はい、ごめんなさい。

 カエルの子はかえう/終

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