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【理絵子の夜話】犬神の郷-36-

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 本橋美砂は……以下キュクロプスを指さして言った。但し、指さしているのは念動力のベクトルをそちらに向けていることを意味した。
 理絵子と登与は期せずして互いの顔を見合わせた。別件になるが、二人は縄文人の生き残り、と思しき男性と出くわしたことがある。古代製鉄の熱源である天然ガス田を聖地として太古から守り続けて来たのだ。この者も似た類の生き残りか。
「頭蓋形成不全系は脳のダメージが大きすぎて長生きしない。でも、稀に生き残って、力仕事に使役された、そんな例はあるかもね。そして、脳への影響が、この人の場合は……」
 美砂は指さしていたその指をじゃんけんのパーのように広げた。差し向けると言うより受け止めるという形状だ。
 キュクロプスから激しい念動圧力が加わっているのだと判じた。足もとの尾根道が、上に重い物載せられたようにぐにゃりと凹み、変形して行く。行き場を失った圧力が地形に加わっているのである。なお、キュクロプスはギリシャ神話の単眼神だが、超能力を行使したという伝承は特にない。
「私たちの生け贄って」
「これの性奴隷になれってことでしょ。冗談じゃない。えっとごめん、二人ともそばに来て。わんこたちも。ベクトルを抜く。力は強いが横暴なだけで技(テクニック)を使うわけじゃ無い」
 少女三人、犬三匹、小さくまとまる。
「驚かないでね」
 美砂は、広げていた手のひらを、ギュッと握り、そして手前に引き据えた。
 空を飛んだ。それは目からの情報でそうと判じた。
 だが、いわゆる浮揚感や、重力に逆らっての上昇といった感覚は無かった。
 飛行機も一定速で飛んでいれば飛行感は無い。
 最上階に止まっているだけのエレベータにも、その下に何十メートルもの虚空があるという感覚は無い。
 ただ、存在位置が高い場所に移動しただけ。
 
(つづく)

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