【理絵子の夜話】犬神の郷-37-
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対してキュクロプスはとにかく目一杯美砂の力に対抗していたようで、美砂がいなしたことから、肩すかしを食らった形となり、力の源である自分もろとも崩壊谷の上へ投げ出されてしまった。
が、敵も然る者。下まで落ちるわけも無く。
「理絵ちゃん!」
以下、美砂からの意志だけ。自分達は言わば一種のバリアに入っているような状態。このバリア理絵子の力で空中につなぎ止めておくことは可能か?
頷いてみせる。“封じる”力は真言密教には各種ある。それを自分に向かって行使すればよい。
よく考えると自分の力で浮かぶことになるが、だから不安だとか、疑問とか、考える余地は無かった。
錫杖を手にする。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、裂、在、前!(りん・びょう・とう・しゃ・かい・ちん・れつ・ざい・ぜん)」
護身の呪、合わせて錫杖で空を切り、市松模様に近似の軌跡を描く。
示唆が来る。地に錨打て。
錫杖を大地めがけて振り下ろす。
強い力が錫杖を捉えて抑え、がんじがらめに固定する。
大きなまち針のように、自分達のバリアは大地に突き立ち、なおかつ保護された。
美砂が一人出て行き。
念動力の戦い。
それは物をぶつけ合う。或いは、相手の肉体に干渉する。少なくとも理絵子が読んだSF・ファンタジー系の物語ではそんな書き方。
だが、超能力は本来、その出自の故に肉体のダメージを狙っても無意味。
ただ、この戦いの場合、ひとつだけ、肉体的要素が指摘できる。キュクロプスが有する性的な欲求である。
一方、攻撃・防御すべきは霊的本質、すなわち“心”なのであるが、そちらでは自分達の方に引け目が存在する。性的な心理への拒否・嫌悪感である。
受け入れてしまえば……
〈理絵ちゃん違う!〉
本橋美砂の声が識域に響き、思考が断ち切られた。
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(つづく)
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