【理絵子の夜話】犬神の郷-39-
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〈むしろそれを狙っている。殺したつもりで油断させて。だめだよ美砂さん〉
看破、であった。
頷きが返って来、肉体攻撃は断念の旨表明。
されば意識精神に対する攻撃、となるが、霊体って消せるのか。
理絵子は過去に死神と相まみえたことがあるが、“彼”は、結局自身が属する世界に去った。地下茎で繋がる植物の地上部分のみを刈ったかのようであった。
いわゆる悪霊ならば元は人間であり、納得すれば人として然るべき地へ行く。
対してこれは?目の前のこれは何?夢魔・淫魔としてインキュバスという名を知る。しかし本来、性の欲求とは、生物として子孫を残そうという本能じゃないのか。魔物は多く何かの化身だが、肉体の一属性なのに霊的な化身を持つってありなのか。
彼女達は気付いた。
その者が、肉体から、精神を脱出させようとしている。
幽体離脱である。目的はひとつ、精神と肉体を別々に操り、彼女達に汚辱を与えようというのだ。身体がダメなら霊肉二元でということか。
そうはさせるか、理絵子としては反射的な対応であった。
錫杖を手に再び九字を切る。ひょうひょうと風切り音を立てて杖が舞う。
呪文と共に、キュクロプスの動きが、思惟が止まった。
封じたのである。
密教では結界を形成して魔の行動範囲を制限するが、たった今出来上がったこれは、それより数段高度なものだ。行動のみならず、相手の意識活動、考えることすらも止めてしまった。いわば、相手だけ時間が止まった。
美砂がこちらを見る。
〈いつまで維持できる?〉
〈判らない。ここまで踏み込んだのは初めてだから〉
多分自分一人の力じゃない。二人の協力を得て、自分はタクトを振っただけ。
〈驚かないでね〉
美砂は再び言い、手指をパチンと鳴らす。
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(つづく)
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