【理絵子の夜話】犬神の郷-40-
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自分達のバリアーが解けた。
どさっと雪上に落ちる。相当な高さだがショックも痛さもない。美砂が念動で制御しているのだろう。
途端、自分達を何かが囲繞し、次いでねっとりと身体にまとわりつくもの。
何だろう。見られ、聞かれ、匂いを嗅がれ、なめ回されているような不快な気分。
無理矢理書き出すならば、剥き出しの好奇心が肉体を抜け出し、ガス状になって這い回っている、とすれば近いか。
その不快さは一言、振り払い切り捨てたい。理由は簡単、自分達はそれこそ、“舐められて”いる。そうこれは舐めるような目線、の具象化。
それは同時に、こいつが計り知れない怪物であることを意味した。
〈これが、本体〉
美砂は言った。即座に地下茎の概念と結びつく。ということは、ガスの性状を備えた霊的生命体で、キュクロプスは肉持つ分身とでもいうのか?
持ってる霊物を集結する。登与はロザリオを持っており、首から下げるに際しては、髪の毛を編んだ紐を使っている。以前手助けしてくれた霊界の聖戦女が、お守りにとくれたものだ。これを手首に巻く。
〈オカルト雑誌広告見て買ったインチキだったのに〉
〈使う方の気の持ち方次第でしょ。逆も又然り〉
理絵子は髪をまとめるりぼんを解く。同じ髪の毛をこのりぼんに織り込んである。
りぼんを錫杖の円環に巻く。
すると。
示唆を得、基づいて錫杖閃かせ、囲繞していた物を断ち切る。
まるで脚切られたタコである。まとわっていたものはシュッと音こそしないが、そんな勢いで引っ込んだ。
件のクレバスの部分へ。
〈霊剣の切れ味〉
〈えらい物持ってるね〉
美砂がコメントした。目に見える物体としての髪の毛に加え、件の聖戦女がくれたものもう一つ。心にだけ見える短剣。
その剣が、今錫杖に現身として生じている。霊剣が錫杖に憑依・乗り移ったと言えば良いか。
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(つづく)
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