リトル・アサシン【目次】
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ちなみに綺麗に貫通したので、マンガの老兵のように不発弾を腹に抱えて歩いているわけではない。
果たして彼はTシャツを下ろさせた。
「女ってひ弱なだけかと思ったぜ。おい兄弟、銃を下ろせ。この女は戦士だ」
おいおい。すると背後から、
「しかもサムライだ」
おいおいおっさん。
「お前は黙れ異教徒」
調子づいて補足した青い目の小児科医は、カラシニコフ3挺を向けられてホールドアップ。
「お前に免じて近づくことを許す。その窪みを踏むな」
「ありがたいこって」
「だからてめぇは黙れ。必要なこと以外喋るんじゃねぇ。これ以上言わねえぞ」
軽口の小児科医は即座に何か返そうとしたようだが、さすがに今度こそ黙ってやり過ごした。
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結果、照らし出された全て。
光学的には無論のこと、霊的にも。
あらゆる物が彼女達に見えるようになったのはもちろん、あらゆる記憶と歴史が彼女達にもたらされた。
「これは」
絶句、としか言いようのない状況であった。
集落を構成する“家”は人骨を組み合わせて形成されていた。
屋根は編んだ髪の毛や乾燥した皮膚であった。
それらの“調達”には鬼に多く共通する一つの概念を思わせた。
人肉食。
犬たちが再び注意を喚起し、彼女達は足もとに忍び寄った者達に気付き、地上に叩き付ける。以下この者どもを鬼と呼ぶ。
鬼どもは地表各所で血を吐いていた。苛烈だが遠慮が無いのは、そのくらいじゃダメージがないと判っているから。
続いて彼女達は知る。ここには子どもがいる。
考えれば当たり前だが、幼くよちよちとしたその姿は一瞬の躊躇をもたらした。
叩き付けた者達がにわかに復活、彼女達を拘束する。念動的拘束だったが、気付いたら自分らの足首を掴んで眼前にいた。どうやら、自分の念動の及ぶ範囲のいずれの場所にも肉体を移動できるらしい。それこそ地下茎のようにまず一部を侵入させ、土台を築いてから本体が移動してくるのだ。
性欲の塊に肉体を拘束される。
肉体的な直接接触は、念動の掛け合いとはまた次元が違った。
心はさておき、肉体は肉体の本能によって心と異なる反応を示すからだ。念動の発生、呪文の発声、そこに行く前に恐怖と萎縮に苛まれる。
鬼どもは足首を持って大きく押し広げようとした。性的に陵辱しようというのであった。
身体からの非常警報。
感じ取ったか、雄々しく立ち向かったのは他ならぬ犬たちであった。牙を剥いて鬼達に食ってかかった。
止める間もなかった。そして、しかし。
犬たちは所詮、念動有する鬼の敵では無かった。
僅かな鳴き声と共に、犬たちは雪の上で次々動かなくなってしまった。
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(つづく)
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機器のバッグは少年が担いだ。レムリアと医師はホールドアップさせられ、そのままの状態で彼について行く。
「重くない?それ」
測定器はバッテリー内蔵で10キロ以上ある。
「無駄口を聞くな。それから、オレの足跡以外踏むな。1フィートずれたら地雷を踏むぜ」
洞窟に近づくと、待っていた男達の顔に驚きが浮かび、構えていた銃の向きが若干下がった。
「女って小娘じゃねぇか!」
「オレが娘を見る。ボディ・チェックさせてもらうぜ」
「待てよ兄者」
……現地語だが、判るものは判るもの。
果たして、彼女めがけて我先状態の二人の間に、彼が身を差し入れた。
「頼まれたのはオレだぜ兄弟」
見れば彼らは顔が似ている。彼は大家族の中で最年少の男、と知れた。
「悪いな下品な兄どもでよ」
「いいえ」
それが、下品と言うことが判っているだけ、君はマシだ。
充分に婦女子への敬意を感じながら、足首から太ももまでタッチしてチェック。
「服の下には何もないだろうな」
自分から証明する機会をくれたのは彼の気遣いと捉えるべきだろう。Tシャツを少しはぐってバタバタさせる。恥ずかしがるほど胸のサイズが無いのが、かえって〝何もない〟の証明をたやすくしているのは何の皮肉か。
すると、
「おいちょっと待て!」
彼は大きな声を出して彼女を制した。兄らに殺気が走り、銃口がカチャリと自分を向く。
「ん?」
彼女が言われた通り動作を止めると、彼は銃を背中に回し、腰を屈めて彼女のヘソの脇を覗き込んだ。
「銃かこれ」
横腹に抱えた弾痕に一言。
「ああ、うん。こんなことしてれば撃たれるし、命中することもあるよ。でもピンチの命はそういうところに多いわけで。怖がっていたら何も出来ない」
彼女は言ったが、実際に撃ったのは合衆国軍である上、医療ボランティアの活動とは無関係。本編とは関係ないので省く。
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(つづく)
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さておき、まずは彼らの駆使する念動力に対処する。送りつけられる意志は単純かつ明快。組み伏せて陵辱する。子孫を残せ。
美砂はひたすら生殖器を狙った。欲望剥き出しの有様に対して刃物で切るような力を駆使する。ほぼ一撃で全員の生殖器を切ったが……登与の看破通り再度ニョキニョキ生えてきた。愛情無き陽物は往々にしてある種のおどろおどろしさを伴うが、それが切っても切っても再生する様は狂気すら感じさせる。実際その有様は常人が見たなら、同年代の普通の女の子ならば発狂しても不思議ではあるまい。
美砂が手間取るその間に、他の者どもは彼女らを包囲し一散に襲いかかるという組織行動を見せた。しかしこれには理絵子が対処した。長刀よろしく錫杖を振り回し追い散らす。結果、それぞれしたたか岩や壁面に激突するが、肉体・精神のダメージは大きくはない。いや、出血はしているし、手や足の明確な折損、内部組織の脱出も見られるが、それを痛いとか異常とか思う神経が無いのだ。稀な病気の一つに痛みを全く感じないというのがあるが、それと同様であろう。
〈効くかどうか判らないけど……〉
登与は姓が高千穂ということもあり、名前だけ見れば神道の巫女を思わせるが、彼女は能力の故に西洋の魔法に興味を持ち、応じて十字架を手にした。
太陽系を形成する星々の精霊に力を借りる。ルーンで綴られた秘密の暗号。
「(アポロンよアポロンよ。天に座したる太陽王、灼熱と浄化の権限を今こそ我が手に)」
途端、地下洞窟都市が燃え上がるように明るくなった。まるで太陽が小型化して登与の手に宿ったようであった。それは一見、オカルト雑誌の遊び心の呪文が本当のドライブ能力を有したかのようであったが、実際は登与自身の真摯な気持ちが天へ通じたと見て良いと思われる。
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(つづく)
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持って行く機材を一つ一つ彼に見せて大型のバッグに詰める。無論、バッグは手品同様、裏返して空であるところを見せておく。問診キット一式に注射器たくさん、抗生物質、そして、お腹の赤ちゃんを見るのに使うことでおなじみ、超音波解析装置、及び、その際塗布するジェル。
「この機械はなんだ」
少年は解析装置をバッグに収める動作を制して言った。……テレビに近似だが似て非なる謎の箱であり、疑う理由も判らぬでない。
「身体の中を切ったりせずにある程度覗くことが出来る……」
「そんなこと出来るもんか」
「あなたの虫歯も口開けずに見えますよ。やってみせましょうか?」
「オレに触るな」
突撃銃の銃口がこっちを向いて、安全装置ががちゃんと外れた。
ええい面倒くさい。
「めいど・いん・じゃぱん」
指さして言う。別にウソではない。裏の銘板を見せる。読めたようだ。
そして実は〝日本〟というフレーズは、先の道中がそうであったように、国際的な緊張を一瞬で解くマジックワード。
「私自身で」
言って電源を入れ、起動を待ち、バーコードリーダに似た、センサ部分を頬にあてがう。歯並びが3次元で表示される。
「胸に当てるとこの通り心臓がドキドキ」
「ば、バカヤロ」
彼が目を逸らして照れてから、彼女はその理由を知った。
「持ち込んでいい。オレの後ろから付いて来やがれ。走るんじゃねぇぞ」
荷造りを終えると、少年が洞窟都市の方へ向け声を発した。行く旨報告であろう、朗々とその声が反響する。少しあり、洞窟側から応じる声が聞こえ、男が2名現れて銃を高く掲げた。
2名は銃を下ろすとキャンプへ向けた。移動中疑義あればレムリア達はおろか、キャンプ丸ごと銃撃するぞ、というわけだ。
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(つづく)
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以下邦訳を意味するカッコ付けを略す。
「ええ、初めまして」
「お前も子どもじゃないか」
一般にシルクロードの西から東を見た時、女性は童顔で小柄であるため、大人か子どもか区別が付かないという。確かにオトナには見分けが付かないかも知れぬ。が、子どもには相手が近しいかどうかそれと判るもの。
彼女の実際の年齢は、14歳。それで看護師というのも希少であろう。
「虫歯があるでしょ。何か食べると歯が痛い」
指摘したら、果たして彼は驚いた。
「見ただけで何故判る!?」
「看護師ですから」
当たり前のように言ってちょっと自尊心をくすぐってみる。……ただし、看護師というのは本当だが、虫歯を見抜いたのはその結果というわけではない。彼女には、先のニンジャ能力に通ずる秘密が少々ある。
「それよりも子ども達に流行り病と聞いて来たんだけど」
「そうだ。お前の他にも誰か来るのか?看護婦と医者じゃ違うだろう」
手を上げたのは短く刈った金髪に碧眼の男性スタッフ。小児科医。スイスから。軽妙な会話が子どもに人気。但しここで通用するという保証はない。
「了解した。言っておくが、お前に許したのは病気の子を看ることだけだ。指定した場所以外に1インチでも動けば殺す」
少年は銃に手を掛け再度強調した。住居内は神聖であり、基本的に同じ民族しか入れない。そのため彼らは当初、異教徒でない丸腰の女医師を寄越せと要求した。対して同じ肌の色した看護婦(元の交渉文言が看護「婦」である)なら用意できると応じたところ、許可されたのが彼女である。以下、族長と何度も協議し懇々と説得したところ、丸腰の女である上、コーカソイドでないことが決め手となったとか。それでも、これ以上は絶対に無理という妥協点として特認中の特認だそうである。ちなみに女を指定した意図は、何かあっても素手で殺せるという理由による。……彼らにとって女は単なる柔弱な存在、しかし一族の存続に不可欠だから保持しておく、程度の認識。
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(つづく)
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ああ、と理絵子は声に出したくなった。思えば自分の霊的冒険には都度、杖なり剣なり味方に付けて乗り切ってきたように思う。それが今もまた、であろう。ただ、これは過去のいずれとも異なる凄まじい代物と言える。その聖戦女は北欧神話系の出自、一方錫杖は密教系だ。相乗りした、ということになるからだ。高天原に宗教戦争はあるまいが、共同で人間如きに助力いただけるとは。
その意味するところは“天からの信頼”以外の何物でもあるまい。
確信。自分は自分の見識と価値観に従い、この剣を振るえ。
応じたある種の権利と共に。
理絵子はその“剣”を手に、中空で固まっているキュクロプスに目を向けた。
〈どうするの?〉
肉体的攻撃不可能。対し、精神的攻撃を抑えるには、永遠に封じるか完全に消滅させるか。
魔性の物であれば、こちら側、言うなれば闇から光へ出てくる手段・乗り物として肉体を用いる場合もある。ある種隠れ蓑、光除けとして。
〈驚かないでね〉
理絵子が言う番であった。
「屠りなさい!」
犬たちに命ずる。
それは登与にはデジャヴであり、美砂には驚愕であった。ちなみに、その聖戦女の助言を得て、悪霊と化した古代戦士から除霊する際に使った手段が、聖戦女に連れ添う狼に食わせるという行為だった。曰く北欧神話では、兵の屍を狼が食うのは神の元へ返す儀式を意味するとか。
果たして力場から切り離されたキュクロプスがどさりと落下し、犬たちが食ってかかる。
〈これは……〉
〈霊的な存在を消去する手段は恐らく2つ。正と負とが衝突してプラスマイナスゼロになること。権利者が消してしまうこと〉
〈権利者……生殺与奪……神様ってこと?でもまさか〉
美砂の驚愕に理絵子は解を示した。
〈犬神〉
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(つづく)
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レムリアは医療キャンプには日があるうちに着いた。ガイドとワンボックスは即座に引き返し、一方彼女は許可あるまでキャンプから出るなと厳命された。それは疲れたから休めというより、警戒の様子見と判断するのが恐らく正しかろう。その間にキャンプのスタッフから概況をレクチャー。
結局一晩留め置かれ、翌、夜が明けて程なく、その何もない乾燥地を走ってくる少年の姿有り。時計の針は4時25分。
伝令である。彼らはこちらに〝受診〟には来ない。〝往診〟のみ許可される。敵の中に入って行こうとはしない。
彼女は気付いて目が覚め、彼が目覚まし代わりにカラシニコフを中空へぶっ放す前に起き上がった。
「(来てもいいぞ)」
少年はキャンプのそばまで来、銃口を天に向けたまま、片言の英語で言った。……敵対する異教徒の言語を勉強したことになるが、何のことはない、彼らが奉じるテロリストのスパイ養成合宿で習って来たのだという。
無論、欺き近づくために。敵を知るにはまず言語から。
彼女は頷き応じると、他のスタッフを起こして回った。一般に4時半に起こしに来るなど嫌がらせに近いが、この地では彼らのルールが絶対なのだ。5秒後に逆のことを言えば、5秒後からはそれが新しい法。
許可を得て洗面と携帯食料の朝食を済ます。その間じっと待っていた彼を昇った朝日が照らす。日焼けした肌に天然パーマの黒髪。ブラウンの瞳。引き締まった表情は戦士であるという自覚もあろう、大人びて見える。体躯は絞り込まれ筋肉質であり、小柄なサッカー選手のそれを思わせ敏捷そうな印象。そして背中にはカラシニコフ。
「(お前か、子ども係は)」
レムリアが差し出した紙コップの紅茶を断り、彼は訊いた。次いで医師や看護師の白衣は怖がると言われたので、白いTシャツの上に水色のカーディガンを羽織る。下はくすんだグリーンのGパン。
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(つづく)
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