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【魔法少女レムリア短編集】リトル・アサシン-12-

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「オレの見てないところで勝手な行動をするな」
「ごめんなさい。空気感染って……」
「小難しい言葉で誤魔化すんじゃねぇ」
 彼女の答えを少年は遮った。彼女は言葉を切ったが、しかし、言うべき事は言わねばならぬ。
「あなたも出来るなら近づかない方が……いつも様子を見に?」
「妹だ」
 止めるわけには行かないか。
 自分達の会話に気付いたか、祈りの声が一旦止まった。鉄の廃材に粗末な布をかぶせた幕屋があり、彼がその布をめくる。
 寝台の幼子と、
 祈祷の装束であろうか、貫頭衣を着、帽子をかぶった父親が彼女を見る。次いで面食らって眉をひそめる。
 彼が割って入り、親子の会話。父親は頷くと彼女に目を向け、恐らくは症状の説明を身振り手振りで懇々と始める。
 対し、彼女は頷いて応じつつも、一見して幼子の症状を理解した。逆エビ形に反り返った身体、食いしばられた口蓋、顔面に浮き出た筋肉と腱の造作。
 それこそ。
「破傷風(Tetanus)。表の医師にさっきの注射(破傷風免疫グロブリン)を。1本残っていたはず……」
 本当は菌の有無が確定しないと判断を下せないが、特徴的な様態はまず間違いない。
「なに?どんな病気だそれ」
 説明しているヒマはないのだが。
「細菌感染症の一種。神経に重いダメージを与え、筋肉を無茶苦茶に動かし、身体を弱らせる。この〝流行り病〟は、他の子も同じような状態?同じ状況で暴れて骨を折ったり、舌を噛んで亡くなったりした子がいる?」
 該当三人。そんな症状、皆、既に死んだ。
 ちなみに破傷風菌は空中を飛ばない。つまりインフルエンザのような空気感染はしない。不衛生な土中に棲息しており、主として傷口から侵入する。
 そして、ここは不衛生。
 なので、感染というよりは、不衛生を基点とする何か共通項がある。と思って訊いたら、犠牲は全部彼の弟や妹だったという。
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(つづく)

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