【理絵子の夜話】犬神の郷-45-
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彼女達は聞いていた。守るんだという彼らの決意を。
最後の瞬間まで貫き通した意志を。
知ったその時、意識で何かが、外れた。
悲しいが、それ以上の強い感情。
……何しやがる。
「邪悪な者よ」
こと女性の方が強いかも知れぬ。怒りは肉体のタガを外す。
タガの外れた肉体でなされるものの一つが他ならぬ出産である。その際の情動は怒りに近い物と言われ“怒責効果”と称される。怒りと、痛みに対する対抗という、肉体に最も大きな力を発揮させる二つの状態の相乗効果を持って(両者を必要として初めて)出産が成し遂げられるのだ。
肉体は肉体の本能によって、心と異なる反応を示す。
恐怖乗り越えた理絵子の動作は俊敏そのものであった。相手も今は肉体の属性を備えている。そこで錫杖を振るい、のしかかって来るその者の目を突く。
結果、肉体は再び霊体に回帰したが、とりあえすどうでも良い。
美砂と登与に襲いかかっていた者どもは自ら離れた。類似の攻撃を受けると悟ったためであろうか。
「どうしよう」
シールドバリアを固定の上で美砂が尋ねた。
要求されたいわゆる生け贄は、性的なもののみならず、食料という側面も多分にあったに相違ない。出産可能年齢を過ぎれば“用済み”だからだ。すなわち、相手も人間型生命体だが、自分達と存在パターンとして相容れない。
結論は一つであった。
絶滅、だ。
だが、それは立派な殺人。虐殺。ジェノサイド。
「忘れてませんか?肉体傷付けても死なないよこいつらは」
美砂の指摘に、動いたのは高千穂登与であった。
“アポロンの火の玉”を彼女は地下集落に投じた。
何か呪文があったわけではなく、手の上の球体を投げ込んだような動作をしただけであったが。
地下集落は猛火炎に包まれた。
ある種のパイロキネシスであろう。
いや。
「登与ちゃ……」
理絵子は呼ぼうとし、気が付いた。
彼らの“肉体”の正体。
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(つづく)
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