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【理絵子の夜話】犬神の郷-48-

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 ならば、ここで守るべきは、彼らの虐殺・絶滅では無く、生きる権利であろう。
 すなわち、人肉捕食の存在する世界へ送る。ちなみに、彼らの外見や嗜好の変質はどうやら当時棲息した大型霊長類と交雑した結果らしい。正常な性的欲望を断念した挙げ句の倒錯は現在でも散見されるが、人間に拒否された結果の同類行動と見て良かろう。類人猿は眼窩の上部が突き出しており、同様の特徴が彼らにおいては“角”という形に現出したのだ。ただ、交雑種は多く子孫が続かない。その結果が悲しき魂の添い集うこの場所。
 そう、今ここに純粋な肉体を持った者はいない。さすれば、過去、幾人の女性達がここで淫魔の如き霊に囲まれ非業に息絶えたことか。……彼女達の声も、痕跡も、感じないが。一体何者がその非業を昇華して天へ送ったのか。
「美砂さん、タイプリープの能力をお持ちですか」
 理絵子は思わず敬語で美砂に尋ねた。人に頼み事をする時は極力丁寧に、という意識があるのでおのずとこうなる。
「それってつまり人間タイムマシンでしょ。さすがに持ち合わせてないよ。テレポートとか跳躍系は特殊というかそればっか専門という感じがする。……この人たちをどこかの時制に送り込むの?」
 美砂は訊き返した。時間を跳躍する能力があるか……真顔で尋ねようものなら正気を疑われるのが普通だが、必要性に基づく問い合わせであり、唐突さはさほどでもあるまい。
「ええ。北欧の神話に曰く、死して横たわる兵(つわもの)の屍数多(あまた)、狼が群れて喰らうは神の御許へ戻るが如し」
 先にも書いた髪の毛の主から聞いた話である。戦乱で累々と横たわる兵士達の死体を狼がむさぼるが、それを主神オーディンの元へ戻る儀式と解釈する。
 すると。
〈理絵子殿、我々が仰せつかろう〉
 犬神、という概念を伴い、意志の声はあった。
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(つづく)

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