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【魔法少女レムリア短編集】リトル・アサシン-15-

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 携帯電話をウェストポーチから取り出し、「てれほん」と見せる。ちなみに彼女の電話は世界各地を飛び回ることから衛星携帯電話。電話と言うよりは軍用無線機を思わせる無骨な機器である。ボタンをあれこれ押して音声メモ機能。
「医師に伝えて欲しい。不潔ナイフによる臍帯(さいたい)からの感染による破傷風の疑い濃厚。TIG必要。用意して欲しいもの。デブリードマン用具一式。ペニシリン……」
 薬剤の名前を列挙。同時に携帯電話に録音する。その電話と、ビニール袋に入れたナイフを持たせる。
「これ持ってって医師に聞かせて」
「判った。あんたは平気か。血が止まらないみたいだが」
「パカパカ動く場所だから仕方が無いよ。私のケガは黙っておくこと。君の秘密で」
「い、イエス・サー」
 強く言ったら、ビンタの効果だろうか、恐怖を感じたようで、彼はこわばった。
 電話をしっかり胸元に抱える。濡れないようにであろうか。
 彼が外へ出、次に行うことは幼子の気道確保。舌噛み防止。
 破傷風では前述の筋肉暴走の結果、自らの筋力で気道を塞いでしまったり、循環器系に障害が起きることもある。このためマウスピースを装着し、舌を保護すると共に、気道まで直接パイプを差し込むという対応が取られる。
 ただ、その前に自分を止血し、血が幼子に触れないよう手袋をする必要があろう。
 それこそ自分の傷口に付いた破傷風菌をあちこちに付着させてしまう。
 ウェストポーチを開いてソフラチュールを取り出し、そのプルプルしたゼリー状を食いちぎって傷口にかぶせ、サージカルテープを貼って固定。
 ゴム手袋を付ける。ポーチの中から日本の割り箸を取り出して……
 舌を噛まないよう、上下の顎の間に噛ませとしたいのだが、なにぶん凄まじい力で歯を食い縛っている。
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(つづく)

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