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【魔法少女レムリア短編集】リトル・アサシン-16-

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 そこへ少年が戻ってきた。
「言われた通り電話を渡した。口を開けるならこれを使えと」
 気道確保用のツールを持ってきてくれたので使う。薄い金属板を噛みしめられた歯と歯の間に当て、少し押し込む。ネジを回すとその金属板が少しずつ変形して顎を開いて行く。工作物を固定する万力(まんりき)という工具があるが、そちらは締め付ける道具であるのに対し、同じ原理でこちらは開く。
 途中道具を交換し、2種類の道具を使って大きめに口を開かせ、マウスピースをセット、胃カメラを挿入する要領で気管へパイプを通す。
 ここで件の超音波診断機が活躍した。人工呼吸装置の挿管は慣れてはいるが、中の状況が見て取れる道具があるなら使うに越したことはない。取ってきてもらい、確認しながら管を通す。成功。
「それと、注射、もらって来たけど」
「ちょうだい」
「君に使え、と」
 彼女は怪訝な顔をした。つまり。
「言っちゃったの?ケガのこと」
「ごめん……その、うまく言えないけど」
 彼の説明は略す。要するに誘導尋問にイエスと答えた。
 次に電話に録音で返されたメッセージを聞く。既に全身症状が出ているならTIGはもう効かない……。
 だから自分に打て。しかし彼女は無視した。出来ることは出来るだけやるのだ。
 彼に手伝ってもらって各種薬剤を幼子に注射。当然強い反射が見込まれるので麻酔剤を皮膚に塗布し、極細の針を使う。
「それも……本当にいいのか?」
 TIG投与完了。
「平気だよ」
 答えてヘソ、感染源の処置だ。産着であろうか麻布を切り取って。
 周囲がひどく化膿しており、直ちにその部位の切除にかかる。その筋の用語でデブリードマン(debridement)という。ちなみに、痛んだ組織を蛆に食わせる治療法が昨今あるが、これも一種のデブリードマンである。
 麻酔を塗って処置する。描写は控える。父子は目を背けるでなく、手伝うでなく、彼女の所作をずっと見ていた。
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(つづく)

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