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【理絵子の夜話】犬神の郷-50-

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 鬼族の状況を見届けたいが、犬神が行けと言うので任せて振り切り、彼女達は集落へ飛んだ。文字通り飛んだ。役の小角(えんのおづぬ)、弘法大師空海が成したとされる空中飛行。イエス=キリストの湖上歩き。ただ、超人の挙動という意識も感慨もない。
 戻り降り立った集落は殆どが薄汚れた雪により埋め尽くされ、所々壊れた建造物の屋根や梁が突き出すと言った有様。
 テレパシーを使う。過去認知を起動する。
「誰もいない」
「え?」
「逃げたみたい。村落放棄みたいな印象」
「待って……残ってる。一人いる」
「佐伯さんだ!」
 3人は互いの立つ位置と感じた方向から、佐伯さんの所在を突き止めた。
 無残に折れて倒れている楠の根元。
 掘るより溶かせということで登与が火の玉を放つ。クレーターが生じたところで正しい位置を絞り込み、本橋美砂が念力一閃。
 佐伯さんは木の根に縛られて埋もれていた。口の中に夥しく雪が入り込み、意識は無く、体温も著しく低い。しかし生命は維持されている。
 めいめい着ている服を一枚ずつ脱いで着せかけ、口腔内の雪をほじり出し、登与が火の玉の術を身体に向かって行使する。
 心臓マッサージと人工呼吸。見よう見まねだが間違いないという確信に基づき。
 佐伯さんの記憶から事態を追う。要するに自分達が出て行った後、幾度となく生じた地震に組長らは恐れおののき、佐伯さんを縛り付けて逃げ出した。
「なぜ」
「私たちが失敗したと思ったから。鬼族が襲ってくると思ったから」
「だからって……佐伯さんが生け贄ってこと?」
 3人はマッサージを中止した。
 佐伯さんが意識を取り戻した。
「ああ、あんた達……」
「鬼族は犬神の手によりあるべき世界へ送りました」
 理絵子はまず言った。
 佐伯さんはゆっくり頷いた。
「そうかい。あんた達なら終わりに出来ると思っていたよ」
「しかし……」
 何故佐伯さんを縛って……尋ねようとして、
 全てがもたらされた。
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(つづく)

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