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【理絵子の夜話】犬神の郷-52・完結-

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「だめよ。これは先輩としての命令」
「はい」
 放り出すみたいでイヤだが、ごねたら佐伯さんは出発できないことも判っている。
 後世へ後世へ、神代から続いた女達のリレーに、ゴールを見たと伝えに行く。天で待ってるであろう彼女達の所へ。
「判りました。お元気で」
「ええ、あんた達もね。早く去ること。信じてるよ」
 彼女達は一礼して背を向け、歩き出そうとし、パチンと破裂する音がして振り返ると、風だけがあって佐伯さんはもうそこにはいないのであった。
「テレポート?消えると空気が穴埋めようとして音するでしょ」
 登与が問う。
「いや……この世にいない」
 理絵子は言い、天地を見回し確認し、彼女の目を見て頷いた。そして、こう付け足した。
「正確に言うとこの時代にいない」
「そうみたいね。私らをそばにいさせなく無かったんでしょう。時空のゆがみに挟まれたり落ちたりしたら何が起きるか。あ、ちなみに、私今あなたたち飛ばせるかってえとムリ。悪いけど歩いて帰るよ。周りでバンバン力使われるとこっちもテンション上がって普段以上の力が出るでしょ。多分それ。佐伯さんはそれこそ跳躍者(リーパー)だよ。奇蹟中の奇蹟」
「霊的に、じゃなくて」
「そう、直接その時代に」
 “後世に覚者が現れる”そう最初に言ったのは実は佐伯さんなのかも知れぬ。タイムパラドクスの世界。
 そして、時間跳躍者・佐伯さんから言わば“溢れ出して充満した”霊的な力によって、バリア形成や集団飛行などオカルトSFレベルの超能力が発揮できた。ゆえに“超人の挙動という意識も感慨もない”。
「佐伯さんってまさか女神様では」
 高千穂登与が息を呑む。時間跳躍などその位高度なはず、ということか。
 理絵子はただ、風の吹き去った方角に目を向けた。
「寒いの?」
「ううん」
 そして、火を操り、空を飛べても尚、見も出来ず触れることすら出来ない領域の存在に震撼するのであった。
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犬神の郷/終
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あとがき
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