【魔法少女レムリア短編集】リトル・アサシン-19-
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羊肉のステーキ。切って焼いて木の皿に載せただけ。
「手が使えない。これで無理矢理引き抜いたら何が起こるか。大丈夫、一晩くらい問題ない」
「俺たちのは食えないってか」
少年が不機嫌になる。そうじゃない……彼女は答えようとして口を噤んだ。
どうして、このように否定したり、相違する見解を受けると、ネガティブに攻撃的に捉えるのだろう。自分たちが正しい、主観、だからであろうが。
「食べさせてよ。それなら」
彼女は言ってみた。
「えっ?」
あーん、と口を開けてみせる。少年は困った顔を見せ、周囲を見回す。気にしているのは父親の存在。男が女に何か施すのは御法度なのだとか(逆は「当然のたしなみ」)。なお父親は食事以降戻ってきていない。族長と話し込んでいるという。
「しょうがねえな」
彼は腰のナイフを抜き、肉を切って先端に刺し、彼女に突きだした。
まるで狼が群れの子に分け与えるように。
ぱく。
「ありがと」
彼女は言った。硬くて噛み切るのに苦労し、味はひたすら塩辛いが、タンパク質はありがたい。
彼の気持ちがほぐれたと知る。
「病気のことだけどさ、族長がなかなか……」
理解してくれない。彼は次の肉を切り分けながら言った。
感染に対する疑念がどうしても晴れない、科学的な説明を受け入れないという。なぜなら、感染は悪魔が次々憑依するという概念。
「お前は本当に大丈夫なのか?」
彼は彼女の手を見て訊いた。手の傷を忘れていた。
ガーゼの下から膿が出ている。
白血球達が戦っている。
「48時間以内に症状が出たら危険」
訊かれて意識がそこへ向くとズキズキ痛い。最もよく考えれば、神の加護だか幸運の印だか何だか知らないが、業界の視点では単なる極めて不潔なナイフだ。破傷風菌の他、ブドウ球菌など、化膿をもたらす系統の細菌類が繁殖していると考えるのが普通。
「……白い液が出てるぞ!?」
「大きな声を出さないで。これは私の中で病原菌と戦って死んだ白血球たち……あ」
.
(つづく)
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