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2012年12月22日 (土)

【魔法少女レムリア短編集】リトル・アサシン-21-

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「この子のお母さんを……峠は越えました」
 彼女は顔を上げ、少年に声を掛ける。彼は銃を離さず、土壁に寄りかかって口を開けて寝ていたが、彼女の言に弾けるように目を開けた。
「お乳が欲しいって。早く」
 Tシャツの下から幼子を出すと、みるみる顔を真っ赤にして泣き始める。但しそれは苦悶に発したものではなく。
 すると……少年が呼びに行く必要は無かった。
 程なく父親が飛んで来て、彼女の腕から幼子を奪うようにして去って行く。
「おい待て親父!おい!」
 少年が追いかけて行く。
 彼女は彼の背中を見送り、安堵を覚えた瞬間、スイッチが切れたような感覚に囚われる。
 堰を切ったように溢れ出す疲労と、
 自分が何らかの病気にかかったという確信。
 指の付け根は明らかに化膿していた。赤く腫れて火照り、その毒素はリンパに入ったのであろう、腋の下(の、ぐりぐり)が鼓動のリズムでビクンビクンと反応している。身体がだるく、熱い。
 立ち上がろうとすると視界がモノクロームに変化する。アナログテレビの砂嵐さながらの様相を呈し、すなわち貧血を起こしかけていると教える。しかも、そう認識してから結論が出るまでの間延びした遅さ。
 自分は恐らく大変な高熱を発している。
 立とうとすると思考の間延びがひどくなる。思考速度が明確に落ちるのが判る。立ち上がることは失神を意味するであろう。
 失神し、そのまま放置されたら。
 自力でここから出なくてはならない。しかし、這って行くことしかできない。
 寝ぼけたカメのような気持ちで動き出したら、目の前に土色でガサガサの大きな手があった。
 がちゃ、と音がし、視界を横切る弾帯。
 タスキに掛けていたのが、前かがみになったのでぶら下がった。
「大丈夫か、お前」
 彼の声だということは記憶している。
 幾らか会話したが、内容は覚えていない。
 感じていたのは硬く乾いた革の感触、その匂い。カチャカチャという銃の機械音。
 風が髪の毛に絡み、砂埃が頬を打つ。
 彼の息づかいが間近に聞こえ、自分は背負われて運ばれていると認識したが、それ以上何も考えることが出来ない。
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(つづく)

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