【魔法少女レムリア短編集】リトル・アサシン-21-
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「この子のお母さんを……峠は越えました」
彼女は顔を上げ、少年に声を掛ける。彼は銃を離さず、土壁に寄りかかって口を開けて寝ていたが、彼女の言に弾けるように目を開けた。
「お乳が欲しいって。早く」
Tシャツの下から幼子を出すと、みるみる顔を真っ赤にして泣き始める。但しそれは苦悶に発したものではなく。
すると……少年が呼びに行く必要は無かった。
程なく父親が飛んで来て、彼女の腕から幼子を奪うようにして去って行く。
「おい待て親父!おい!」
少年が追いかけて行く。
彼女は彼の背中を見送り、安堵を覚えた瞬間、スイッチが切れたような感覚に囚われる。
堰を切ったように溢れ出す疲労と、
自分が何らかの病気にかかったという確信。
指の付け根は明らかに化膿していた。赤く腫れて火照り、その毒素はリンパに入ったのであろう、腋の下(の、ぐりぐり)が鼓動のリズムでビクンビクンと反応している。身体がだるく、熱い。
立ち上がろうとすると視界がモノクロームに変化する。アナログテレビの砂嵐さながらの様相を呈し、すなわち貧血を起こしかけていると教える。しかも、そう認識してから結論が出るまでの間延びした遅さ。
自分は恐らく大変な高熱を発している。
立とうとすると思考の間延びがひどくなる。思考速度が明確に落ちるのが判る。立ち上がることは失神を意味するであろう。
失神し、そのまま放置されたら。
自力でここから出なくてはならない。しかし、這って行くことしかできない。
寝ぼけたカメのような気持ちで動き出したら、目の前に土色でガサガサの大きな手があった。
がちゃ、と音がし、視界を横切る弾帯。
タスキに掛けていたのが、前かがみになったのでぶら下がった。
「大丈夫か、お前」
彼の声だということは記憶している。
幾らか会話したが、内容は覚えていない。
感じていたのは硬く乾いた革の感触、その匂い。カチャカチャという銃の機械音。
風が髪の毛に絡み、砂埃が頬を打つ。
彼の息づかいが間近に聞こえ、自分は背負われて運ばれていると認識したが、それ以上何も考えることが出来ない。
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(つづく)
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