【魔法少女レムリア短編集】リトル・アサシン-22-
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「37.2。68と90」
体温と血圧、と認識している自分があった。
誰を診てるんだっけ。
「安定したな。ゲンタマイシン切れたらどうしようかヒヤヒヤしたぜ」
「おお、気が付いたかプリンセス」
目を開くと、自分を覗き込む男の顔が3つ。
その少し安堵した赤髭と、身体を支配する投げ出したいほどの気怠さに、診られているのは自分であるとようやく気が付く。
ベッドの上に仰向け。少し緩んだテントの屋根。風呂無しで数日缶詰なりの風貌と、自分の嗅覚の反応。それは、男達の野性とでも書くか。
「おっと起き上がる前に言っておくぜ。子どもは助かった。元気にオッパイ飲んでるよ」
言われて、記憶が繋がる。
「良かった」
元気はないが笑みは作れた。掠れているが声も出た。
「ったく、お姫さんのもたらす奇蹟ってのは自分自身の生命力を分け与えてるんじゃないかと思うね」
「やはり破傷風……」
「だよ、その子はね。姫は違う。緑膿菌(りょくのうきん)だ」
つまりこの〝におい〟は……自分。
傷口のある手、化膿したその部位を、ゆるゆると目の前に持ってくる。包帯がぐるぐる。
「そこなら治療した。緑の膿ならほれ」
試験管を見せられる。その菌の感染症は、名の通り化学反応による緑色の膿と、伴う臭いが特徴。
「面倒を掛けました……」
「気にすることなく。もう少し休むといいでしょう。少し食べるべきだ。オートミールか何か用意しようか」
安心か疲労か、そのどちらもか。フッと力が抜けてしまい、ハイ、という声も出ない。頷くだけ。
少し微睡んだだろうか。
ココアの匂いを意識した時、誰かキャンプに来たと判った。足音がスタッフと違う。
「彼女はいるか。治ったか」
少年であった。
「治ったがまだ動けない」
スタッフの誰かが応対している。実際、声が用意できない。
「結婚したいんだ。これを渡したい」
けっこん?自分と?
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(つづく)
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