【魔法少女レムリア短編集】リトル・アサシン-25-
←前へ・次へ→
.
少し距離があるため、鼓膜が破れるような、とまではなかったが、爆風はテントを揺さぶり、吹き上げた砂をザアッと辺りに降らせた。
「爆弾だ!あのガキャ!おいみんな逃げるぞ」
「いえ……攻めては来ません」
慌てふためくスタッフと、色めき立った他の医師らを、彼女は落ち着いた声で制した。
異国の言葉が朗と響く。それは、彼の父親の、吠えるような声であった。
崖の上、ケシ畑があるところに馬があり、その背には長剣携えた男がまたがっており、古代戦士の勝ちどきよろしく、剣を天に突き上げて何事か叫び、やがて走り去った。
立ち上る煙と炎。ケシ畑に火が放たれ、燃えている。
「魔女に呪いのあらんことを」
彼女は言った。
「判るのかい?」
私の勘は勘というより。
「ここの現地語もレパートリーに?」
スタッフの声を遮り、再びの爆発音。
今度は崖の地中都市が火を噴く。横向きの火山噴火のように火柱が突っ走る。
彼らは住居も、畑も放棄し、この地を立ち去る気である。
「逃げるのか」
「ええ。でも元より殺そうとしたのは確かでしょう。彼の父親は私の接近を快く思っていない節がありました。私は恐らく、呪いであるはずの病気を治し、あまつさえは息子をたぶらかした異教徒の女。文字通り魔女です」
「ではプレゼントと称して……」
「恐らく。でも私は受け取らなかった」
魔女なら爆弾かどうか見抜くであろう。そんな意図でこれを寄越したと彼女は理解した。仮に魔女なら、たぶらかされた息子もろとも撃ち殺す。魔女じゃないなら爆死し、巻き添えも出ようが、所詮異教徒と女。つまり、爆弾は魔女かどうかの判断材料だったわけだ。
そしてどっちにせよ、一族に損失無し。
一方、息子の彼はそんな父親の企みは知らなかった。ただ、純粋に。
多分。推測であるが。
結果、彼は射殺された。しかし、続く自分への攻撃は、魔女への恐怖からか、断念し、逃げ出した。そんなところか。
息子の命よりも大事な信仰……本当なのか。
子どもが死んだのは弱いからとか、或いは神の加護が無かったからとか。数と確率で考えていた節はあるが。
.
(次回・最終回)
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【理絵子の夜話】城下 -09-(2023.11.25)
- 【理絵子の夜話】城下 -08-(2023.11.11)
- 【理絵子の夜話】城下 -07-(2023.10.28)
- 【理絵子の夜話】城下 -06-(2023.10.14)
- 【理絵子の夜話】城下 -05-(2023.09.30)
「小説・魔法少女レムリアシリーズ」カテゴリの記事
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -24・終-(2023.07.26)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -23-(2023.07.12)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -22-(2023.06.28)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -21-(2023.06.14)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -20-(2023.05.31)
コメント